研究課題/領域番号 |
18H02076
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
藪内 直明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80529488)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リチウム / ナトリウム / 準安定 |
研究実績の概要 |
低炭素社会の実現には、電気自動車の性能向上を実現する高エネルギー密度のリチウムイオン電池が、また、再生可能エネルギーの活用を目指して、ナトリウムイオン蓄電池の実用化が求められている。本研究課題ではそのためのコア技術となるリチウム・ナトリウムイオン電池用電極材料について、学術的な観点から”準安定化合物”をキーワードとした蓄電池材料設計指針の革新を実現し、その結果を元に新材料の創製を実現する。リチウム・ナトリウム過剰型の新規準安定相化合物の材料合成手法を確立し、電池の高エネルギー密度化を実現することを目的に研究を行っている。固体中のリチウム・ナトリウム含有量の向上により電池材料として”高容量化”を、さらに、電気陰性度の高い元素群を構造中に取り入れることで inductive 効果による”高電圧化”を実現することで、エネルギー密度を現行材料以上に向上を目指した研究を進めている。 本年度は準安定化合物としてリン酸塩と各種遷移金属元素の複合化に取り組み、実際に高容量と高電圧化が可能であるかどうか研究を遂行した。メカニカルミリングを用い、リン酸塩と遷移金属酸化物の複合化に成功し、また、走査型電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光による元素マッピングを行い、このような準安定化合物において、リン酸塩と遷移金属イオンがマクロスケールでは均一に分散し、しかし、ナノスケールでは非均一的に分散していることが確認された。また、電極特性のさらなる向上を目指し、本年度、高圧発生装置を導入した。これらの結果は、蓄電池の高性能化を実現し、将来的な再生可能エネルギーに立脚した社会構築への足がかりに繋がる成果であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでにリン酸塩と各種遷移金属元素から構成された準安定化合物に成功している。固相法により合成したリチウム含有遷移金属酸化物と各種リン酸塩を原料として、遊星型ボールミルを用いたメカニカルミリングにより合成を行った。得られた試料に対して、電子伝導性の向上と二次粒子サイズの低減を目的として10 wt %のアセチレンブラックと複合化処理を行った。粉末X線回折法により試料の構造はメカニカルミリング後原料に由来する結晶性試料由来の回折線は完全に消失し、低結晶性の岩塩型構造の試料が得られることが確認された。しかし、得られた試料を用い、走査型電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光による元素マッピングを行った結果、元素分布はナノスケールでは不均一であることが確認された。得られた準安定相試料の電気化学特性を評価するため、二極式電気化学セルを用いて定電流充放電試験を行った。その結果、遷移金属イオンの一電子酸化還元から計算された理論容量を大きく上回る300 mA h g-1を超える初回放電容量を示すことが確認された。X線吸収分光法の測定の結果、これらの高容量を示す理由は酸素による電荷補償が進行するためであると確認された。また、実際にリン酸塩の割合を遷移金属イオンに対して増やすことにより、平均放電電圧の向上が確認された。しかし、一方で、リン酸塩の含有量が増えすぎると試料の電子伝導性が低下し、それに伴い、充放電容量が低下することが確認された。さらなる組成と構造の最適化により、今後、さらに電気化学特性に優れた準安定化合物が得られることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は特にリン酸塩を複合化させた準安定相化合物について検討を行い、得られた試料が非常に優れた電極特性を示すことを示すことを明らかにした。本年度はリン酸以外の材料系についても同様の手法が適用可能かどうか検討を進める。しかし、一方でメカニカルミリング法を用いて作製した材料は粒子表面の欠陥濃度が高く、また、試料に残留応力が残っていることが多い。このような特徴は電極材料に悪影響を与えることが多いため、次年度以降はさらなる電池特性の向上を目指して、熱処理による欠陥と応力の除去、さらに、適切なバインダーの選択、電解液添加剤の探索といった研究も並行して進めていく。さらに、電池材料としての実用化を目指すためには準安定相化合物の熱的安定性の評価も進めて行く必要がある。そこで、電気化学的に酸化した試料を用いて示差熱走査分析装置などを用い、他の電池材料と熱的安定性の比較・検討を詳細に進める。また、本年度導入した高圧発生装置を活用することで、電気化学特性のさらなる向上を実現する。 これらの研究は、現代社会において重要性が非常に高まっているリチウム・ナトリウムイオン蓄電池の高性能化・実用化といった応用的観点におけるインパクトは非常に大きいものになると期待できる。さらに、準安定化合物の材料設計指針とその学理の構築、準安定相の安定性を決める因子と相変化機構の解明、電池材料における inductive 効果に関する学問の体系化、などが進展すれば、学術的な観点からもその独創性や創造性も高く、固体化学・材料化学分野における波及効果も非常に大きいといえる。
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