研究課題
本研究では、弱い相互作用(低親和性)を駆動力とする蛋白質―蛋白質間相互作用の分子認識メカニズムを解明することにより、生体分子の秩序を制御する新しい分子設計指針を提案することを目標としている。この低親和性相互作用の解明は、熱力学パラメータと速度論パラメータを精密に解析することにより、このパラメータに基づいた分子レベルでの相互作用メカニズムを記述することにより、達成することができると考えている。さらに、その制御においては、抗体や低分子阻害剤を所得することにより、その制御に重要な相互作用界面を見出すことによって提案できると考えている。<InlA-Eカドヘリン蛋白質間の相互作用解析>リステリア菌の表層に発現し、宿主細胞への侵入に重要な役割を果たしているInlAと、宿主細胞側で恒常的に発現している細胞接着蛋白質Eカドヘリン間の分子間相互作用とその複合体構造を解明することにより、低親和性相互作用メカニズムとその制御の足掛かりを見出すことを試みた。まず物理化学的な解析として、相互作用に関する熱力学的プロファイルと速度論的プロファイルを解析した。その結果、InlA-Eカドヘリンの相互作用はエンタルピー駆動型で、会合・解離の早い結合を示す会合形成を有していた。これらの基礎データより、物理化学スクリーニングによる低分子阻害剤の探索を行った。SPRやITC装置を駆使して、フラグメントサイズの低分子化合物が、InlA-Eカドヘリンの相互作用界面に結合し、競合して阻害している可能性が示唆された。この成果は、低親和性相互作用を制御する上で、その相互作用界面において、局所的に重要な制御領域が存在していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
InlAとEカドヘリン間の相互作用において、熱力学的プロファイルと速度論的プロファイルより、エンタルピー駆動型の、早い会合と解離を示す相互作用タイプであることを解明した。この相互作用を制御する低分子スクリーニングを実施し、フラグメントサイズの低分子阻害剤の取得にも成功した。以上の成果は、当初の計画通り進んでいる。
2020年度は、分子制御剤のコンセプトを打ち出すために、OMD-コラーゲン相互作用、InlA-Eカドヘリン相互作用、そしてさらに低親和性のモデル分子を増やすことで、各相互作用モデルから得られる物理化学的性質を精査し、共通する生物学的意義について議論を行う。さらに、これら相互作用に対する制御剤の取得を試み、制御機構に関する相互作用界面の様式に基づいて、分子設計指針につながる提案を試みる。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件) 図書 (3件)
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