研究実績の概要 |
本研究では、高親和性に注目するのではなく、むしろ低親和性で蛋白質ー蛋白質間を起こし、この決して高くない結合親和性を有した相互作用によって重要な役割を果たしている分子に着目し、物理化学的パラメータを活用してその精密な相互作用の理解と制御を試みた。最終年度では、低親和性の相互作用モデルを増やして、各相互作用メカニズムのその生物学的意義について解明することとした。Fc受容体の1つであるFcγRIIIaとIgG型抗体間の相互作用解析では、μMレンジの解離定数であるにもかかわらず、結合界面ではない可変領域の違いや糖鎖修飾の違いによる分子認識の差異が速度論的に変化することを見出した(Biotechnol Prog. 2020, 36(6):e3016)。また熱ショックタンパク質HSP90とその薬剤フラグメント間の相互作用解析では、エンタルピー駆動型の結合がHSP90固有の結合ポケット内部で起きていることが示唆され、低親和性にもかかわらず、HSP90選択的なリガンド制御がなされていることを提案した(J Med Chem. 2021, 64(5):2669-2677)。さらには、ヒトアルブミンHSAと天然型環状ペプチド間の相互作用解析において、HASが低親和性であるにもかかわらず、選択的に標的ペプチドをキャプチャーし輸送している機構を、熱力学的なパラメータより解明した(J Med Chem. 2020, 63(22):14045-14053.)。さらには、以上のように、低親和性相互作用は、熱力学的パタメータと速度論パラメータを精密に解析することにより理解することできることが明らかになった。ここに生命システムの本質を理解する新しい観点があると考えられ、これより新規の生命分子制御剤のコンセプトを打ち出す指針になるであろう。
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