研究課題/領域番号 |
18H02084
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90379587)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘム獲得蛋白質 / 緑膿菌 / ポルフィリン / フタロシアニンシアニン / 殺菌 / 増感剤 / 多剤耐性菌 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
緑膿菌が鉄欠乏状態で分泌するヘム獲得蛋白質HasAが、様々な合成金属錯体を捕捉できることを結晶構造解析、各種分光測定、分子量測定により明らかにしてきた。ガリウムフタロシアニンを取り込ませHasAを光増感剤として用いる緑膿菌の光殺菌について、ヘム獲得タンパク質HasAの外膜受容体のHasRの発現と精製、機能評価と、ガリウムフタロシアニンの光殺菌の作用機序の解明を含めて論文としてまとめ報告した。鉄ジフェニルポルフィリンとその誘導体を捕捉したヘム獲得蛋白質HasAの、緑膿菌の増殖阻害効果について、合成金属錯体の取り込みについて調べ、阻害効果が低い錯体は、HasAから受容体であるHasRへと金属錯体が受け渡され、さらに、緑膿菌のペリプラズム領域まで輸送されいる兆候をつかんだ。本年度は、鉄テトラフェニルポルフィリンとその誘導体の緑膿菌由来ヘム獲得蛋白質HasAとの複合化、さらに、緑膿菌以外の菌体由来ヘム獲得蛋白質HasAとの複合化に取り組み、結晶構造解析に成功している。これまで、テトラフェニルポルフィリン骨格は、タンパク質との複合化は非常に難しいと考えられてきたが、天然のタンパク質がテトラフェニルポルフィリンを結合できることを示すことができた。さらに、ヘムタンパク質の結晶構造解析として最高の分解能の構造解析に成功している。合成金属錯体によって、ヘム獲得蛋白質結晶の質をも改善できることを示すことができた。鉄テトラフェニルポルフィリンを補足させたヘム獲得蛋白質HasAについては、論文として近く投稿する。鉄テトラフェニルポルフィリン誘導体についても、いくつかの結晶構造解析に成功しており、錯体の特性を生かした新規機能の創出に向けて研究を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
緑膿菌の光殺菌については、多剤耐性緑膿菌の殺菌やHasA選択的外膜タンパク質のHasRの発現と精製、機能評価を含めて論文として報告することができた。また、光殺菌の成果を中心に、いくつかの国内雑誌に総説として報告した。実際の利用に関しては、いくつかの企業との共同研究を計画している段階にあり、実用化に向けた取り組みは、当初の計画以上に研究が進展している。金属錯体とヘム獲得蛋白質の複合化に関しては、鉄テトラフェニルポルフィリンとセラチア菌由来HasAの複合化と高分解能結晶構造解析に成功するなど、当初の計画以上に研究が進展している。鉄テトラフェニルポルフィリンの研究については、論文として近く投稿の予定であり、本研究課題期間中に論文として報告可能である。さらに、鉄テトラフェニルポルフィリン誘導体とHasAの複合化も進展しており、これらの誘導体の特性を生かした新しい機能の創出に研究が展開されつつある。研究計画で提案した緑膿菌の殺菌にとどまらず研究が進展しており、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
緑膿菌の光殺菌システムの構築に成功し、緑膿菌に関しては薬剤耐性によらずに、殺菌できる。しかしながら、実際に光照射可能な感染部位は、目や耳、創傷などに限られるため、光照射不要の殺菌システムを開発する必要がある。HasAに取り込ませたガリウムフタロシアニンは、HasRを介して、緑膿菌のペリプラズム領域に移送されることがわかっている。錯体の金属と配位子の構造の違いによって、領域に移送される場合とHasRに留まる場合があり、ペリプラズム領域に積極的に輸送される錯体を開発し、さらにペリプラズム領域にて毒性を発現する金属錯体を検討することによって、光照射なしでも緑膿菌を殺菌可能はシステムを開発する。金属錯体に抗菌薬を共有結合で連結する、抗菌薬の選択的輸送についても検討する。また、ヘム獲得系を持つバクテリアは、緑膿菌以外にもセラチア菌、蛍光菌など多く存在するため、ヘム獲得タンパク質に合成金属錯体を補足させ菌体内に合成金属錯体を送り込む手法を、他の病原性細菌への適用拡大を図る。
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