強い薬剤抵抗性を持ち,多剤耐性化しやすく,院内感染の主要な原因菌となっている緑膿菌は,鉄欠乏状態で,鉄分としてヘムを獲得するためにヘム獲得蛋白質(HasA)を分泌する.菌体外に放出されたHasAは,ヘムを捕捉して緑膿菌に戻り,菌体表面に存在するHasAに特異的な受容体蛋白質(HasR)と相互作用してヘムをHasRに受け渡す.HasRを介して緑濃菌に取り込まれたヘムは菌体内で分解され,鉄源として利用される.HasAは,上下2本のループを用いてヘムを挟み込む独特なヘム結合様式でヘムと結合するため,ヘムとは異なる形状の合成金属錯体であってもHasAなら捕捉可能であると考え,HasAと合成金属錯体の複合化を試み,ヘムとは構造が大きく異なる鉄サロフェン,鉄フタロシアニン,鉄ジフェニルポルフィリンとその誘導体などの様々な金属錯体を捕捉できることを結晶構造解析により明らかにしてきた.光増感剤としてガリウムフタロシアニン(Ga-Pc)を取り込ませたHasAを緑膿菌に作用させて,Ga-Pcを積極的に取り込ませたあとに,10分間の赤色光を照射するだけで99.99%以上の緑膿菌を光殺菌できることを明らかにした.多くの抗菌薬が効かない多剤耐性緑膿菌(臨床株)であっても短時間の光照射によって殺菌できることを報告した.金属錯体とヘム獲得蛋白質の複合化に関しては,鉄テトラフェニルポルフィリンとその誘導体がHasAと複合体を形成できることを明らかにした.嵩高い置換基を持つ合成金属錯体の鉄テトラフェニルポルフィリンが天然蛋白質に安定に取り込まれることを結晶構造解析により確認した.さらに嵩高い置換基を有する金属錯体もHasA変異体を利用することにより安定な複合体を形成可能であることも明らかにしている.緑膿菌由来のHasAだけでなく,他の菌体由来のHasAであっても合成ポルフィリンとその類縁体を捕捉可能であることも明らかにした.
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