研究課題
本研究では、光増感剤とペプチド/タンパク質を組み合わせた機能性光増感ペプチド(FPP)を開発し、細胞機能を光で時空間的制御して観察する技術を確立する。 FPPは光依存的に細胞質内に入っていく分子である。 本研究ではFPP開発とともに、FPP技術の生殖・発生・細胞分化への応用を進めている。本年度は以下に取り組んだ。1)FPP一過的導入に基づくFPP機能の細胞周期依存性の解明:HeLa細胞では各細胞周期phaseは1時間弱から数時間で次の周期に切り替わる。このような細胞周期と外来ペプチド/タンパク質の細胞内機能との関係性を調べるためには、その素早い細胞内導入法が必要である。本年度はアポトーシス誘導性のBimペプチドをFPPの形状にして、光で瞬時に細胞質内に導入し、アポトーシス誘導機能の細胞周期依存性を調べた。その結果、G1/S移行期にBimによるアポトーシスが起こりやすくなることを明らかにした。2)FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製:哺乳動物では受精時、精子が卵子に侵入すると卵活性化因子PLCζが導入され、反復性の細胞内Ca2+濃度の上昇の誘導を経て、卵活性化して発生が始まる。この卵活性化機構が不全なケースは不妊の要因の1つである。この解決策としてPLCζの人為的導入が考えられるため、FPPの仕組みで働くTatPLCζの作製を行った。その遺伝子を作製し、発現精製したところ、少ないながらも目的産物が得られた。3)初期発生の時空間制御:shRNA導入による初期発生の時空間制御を目指し、内部細胞塊と栄養外胚葉の2つの細胞系譜への分化に関わる遺伝子の時空間特異的ノックダウンを試みた。狙いをつけた細胞内へのshRNA導入はできるようになり、僅かながら標的のaPKCノックダウンが見られた。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初のH31/R1年度計画どおりに、1)FPP一過的導入に基づくFPP機能の細胞周期依存性の解明、2)FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製、3)初期発生の時空間制御のためのshRNAの細胞内導入、が進んでいるため。
1) 細胞周期に合わせた一過的分子導入法の確立と、細胞内イベントの光誘導への応用:次年度は、本年度に観測した現象(G1/S移行期にBimによるアポトーシスが起こりやすくなること)がどういう原理に基づくのかをG1/S移行期の関連因子の阻害剤などを用いて調べる。またこの現象が、細胞周期の同調などの一般的手法においても観測できることを確かめる。2) FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製:本年度にFPPの仕組みで働くTatPLCζを作製したので、次年度はこれを用いてカルシウムオシレーションと、それに基づく卵活性化が起こるかどうかを調べる。3) 初期発生の時空間制御:本年度までに狙いをつけた細胞内へのshRNA導入はできるようになったが、標的のaPKCノックダウンは僅かにしか観測できなかった。次年度は初期の細胞分化に寄与するような標的をいくつか当たって、明瞭なノックダウンの誘導を目指す。
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