研究課題
本研究では、光増感剤とペプチド/タンパク質を組み合わせた機能性光増感ペプチド(FPP)を開発し、細胞機能を光で時空間的制御して観察する技術を確立する。 FPPは光依存的に細胞質内に入っていく分子である。 本研究ではFPP開発とともに、FPP技術の生殖・発生・細胞分化への応用を進めている。本年度は以下に取り組んだ。1) 細胞周期に合わせた一過的分子導入法の確立と、細胞内イベントの光誘導への応用:光照射時に急激にFPPが細胞質内に届く仕組みを利用し、細胞周期に合わせた一過的FPP導入法を開発する。R1年度には、細胞周期を可視化する蛍光マーカー(Fucci2)を発現するHeLa細胞に対して、アポトーシス誘導性のBimを機能部位とするFPPを光依存的に導入し、細胞周期ごとのアポトーシス誘導率を調べることができた。本年度はG1/S移行期にBimによるアポトーシスが起こりやすくなる現象とG1/S移行期の関連因子の関係を阻害剤を用いて解き明かした。また、FPPとFucci2を用いて見出した結果は、細胞周期の同調法を用いた場合にも観測できることを確かめた(Kim et al, Sci. Rep. 2020)。2) FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製:光増感剤を付加したTatPLCζを作製し、これを用いてCa2+オシレーションの誘導を試みたが、明確なCa2+濃度の変動は観測できなかった。今後TatPLCζの精製度の改善が必要と考えられる。3) 初期発生の時空間制御:発生初期の胚のなかで狙いをつけた細胞内へのshRNA導入を行い、これが想定通りの光化学的内在化機構(エンドサイトーシスと光応答的エンドソーム脱出)に基づいて起こることを蛍光標識を用いて示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初のH31~R2年度計画どおりに、1)FPP一過的導入に基づくFPP機能の細胞周期依存性の解明、2)FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製、3)初期発生の時空間制御のためのshRNAの細胞内導入、が進んでいる。難航している部分もあるが、原著論文として成果も出ており、おおむね順調と言える。
1) 細胞周期に合わせた一過的分子導入法の確立と、細胞内イベントの光誘導への応用:本年度までにTat-Bimを用いたアポトーシスの光誘導を題材として本技術を確立した。次年度は、この技術を細胞分化の光誘導へと応用する。FPPを用いたRNAの導入に基づいて培養細胞の細胞分化の光誘導を試み、さらには細胞周期との関係も調べる。2) FPPを用いた人為的卵活性化に向けたTatPLCζの遺伝子工学的作製:本年度TatPLCζによるCa2+オシレーションが明確に観測できなかったのは、その精製度および濃度が低かったことは原因の1つであると考えられる。TatPLCζは発現量が非常に低く精製も困難であったが、培養系と精製法の検討により精製度および濃度を改善して再度Ca2+オシレーションの誘導に基づく卵活性化を試みる。3) 初期発生の時空間制御:発生を追跡するうえで、本手法で処理した胚の発生が途中で止まる割合が多いことに本年度気付いた。そこで今後は、本手法によるRNA導入の効率を下げることなく胚のダメージを減らすような条件を検討する。そのうえで、初期発生における細胞分化に寄与するような標的を当たってノックダウンが起こることを示すとともに、初期発生における細胞分化の時空間的制御を試みる。
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