研究課題
中分子や柔軟分子のような新奇分子の構造を簡便に分析する手法の開発に向けて、赤外円二色性(VCD)の理論計算と化学ラベル化という二つのアプローチを用いて研究を進めてきた。理論計算を用いるアプローチでは、従来の分子力学(MM)計算と密度汎関数法(DFT)を用いた計算法に加えて、特に構造決定したい分子のフラグメント構造を適切に抽出・モデル化して計算に用いる手法を活用した。本計算法は構造解析に有用であるのみならず特性IR・VCD吸収の振動モード解明にも有効である。上記の計算法を用いて、極めて柔軟な酸化脂質の構造決定を実施した。多価不飽和脂肪酸は生体内において酵素的・非酵素的に酸化されて酸化脂質を生じる。酸化は不斉炭素の生成を伴うものの、脂質の高い柔軟性によってその構造分析は困難である。また酸化脂質やその誘導体を創薬化学へ利用する際にはそれらの立体配座の解明も望ましい、我々はVCD分光測定の利用によって、酸化脂質のキラリティーやコンフォメーションを解明する方法論の開発に成功した。化学ラベル化を用いるアプローチでは、対象分子に対して2400-1900 cm-1に吸収を有する発色団を導入することによって複雑な分子でもその局所構造情報を本発色団のVCDシグナルを基に解明する方法論の開発を実施した。適切な官能基を探索するべく、シアノ基、イソシアノ基、アルキン基、アジド基などを各種分子に導入しそのVCDを測定した。アジド基は特に強度が大きく、解釈しやすいVCDシグナルを与えることを見出した。各種生体関連分子へのアジド基導入と、構造解析も可能だった。また、シグナル強度は小さいものの重水素メトキシ基(OCD3)は局所構造の抽出に特に有効であることも見出した。不斉炭素を10個有する分子においても重水素メトキシ基はその近傍の1つの不斉炭素の情報のみ抽出できることを実証した。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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