研究課題/領域番号 |
18H02095
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
江口 正 東京工業大学, 理学院, 教授 (60201365)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天然物 / ラジカルSAM酵素 / 生合成 / 反応機構 |
研究実績の概要 |
本年度は、ホスホマイシンの生合成に関わるラジカルSAM酵素の機能解析について検討した。ホスホマイシンはStreptomyces属やPseudomonas属によって生産される抗生物質であり、その幅広い抗菌活性から臨床医学において広く利用されている。ホスホマイシンは天然物の中でも比較的小さな分子でありながら、オキシラン環にホスホン酸ユニットが直接結合しているというユニークな構造を持つことから、その構築機構に興味が持たれ、古くから生合成研究が精力的に行われてきた。そこで、本年度ではStreptomyces属におけるホスホマイシン生合成中の、コバラミン依存ラジカルSAM酵素Fom3の機能解析を行った。 まず、fom3 遺伝子と鉄硫黄クラスター生合成マシナリーを大腸菌にて共発現させ、金属アフィニティークロマトグラフィーによりほぼ純粋な組換え酵素を得た。嫌気条件にて、精製Fom3 の鉄硫黄クラスターを再構成した後、メチルコバラミン、ジチオトレイトール 、NADH、メチルビオローゲン存在下にてS-アデノシル-L-メチオニンとシチジリル化された2-ヒドロキシエチルホスホン酸を混合したところ、メチル化生成物が確認できた。さらに、メチル化の立体化学を検証するため、シチジリル化された2-ヒドロキシエチルホスホン酸のキラル重水素化体を用いて酵素反応を検討したところ、酵素反応過程で5'-デオキシアデノシルラジカルがシチジリル化された2-ヒドロキシエチルホスホン酸2位のPro-R水素原子を引き抜き、立体反転でメチル化が進行することを明らかにした。さらに、Fom3の生成物であるシチジリル化された2-ヒドロキシプロピルホスホン酸の加水分解をこれまで機能未知であったFomDが行うことを明らかにし、これによりホスホマイシンの全生合成経路を解明するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、広範な抗菌活性を示す抗生物質であるホスホマイシンのC-メチル化に関わるラジカルSAM酵素の機能解析について明らかにした。さらに原核生物の膜脂質成分の一つであるホパノイドの生合成過程に関わると推定されているラジカルSAM酵素の発現にも成功している。ホパノイドは五環構造を有するトリテルペノイドであり、原核生物の細胞膜の安定性を調整する役割を担う。その構造的特徴として、側鎖部分に糖に由来する炭素5員環を有する。Burkholderiaにおいてホパノイドの生産を止めることで薬剤耐性がなくなることが報告され、近年、創薬ターゲットとして注目されつつある。現在、ホパノイドの生合成全容を明らかにすべく、このラジカルSAM酵素の機能解析に取り組んでいる。この様に、着々と新たな知見が得られている段階にあり、これらを考えるとほぼ予定通りに研究計画が進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降も引き続き、機能未知のラジカルSAM酵素の機能解析を進めていく。種々の天然物の生合成遺伝子クラスターにコードされているラジカルSAM酵素には、バクテリオホパン、マクロラクタム抗生物質インセドニン、アミノグリコシド抗生物質デオキシブチロシンおよびトブラマイシン、抗腫瘍抗生物質パクタマシンなどの生合成遺伝子クラスターに含まれるラジカルSAM酵素があり、これらの酵素の機能は、化学構造と類似の抗生物質の生合成経路等から推定できるものの、詳細な反応機構は、何が基質であるかを含めて未解明であり、非常に興味深いものである。本研究では、着々と機能未知のラジカルSAM酵素機能解明を進めており、今後も精力的に進めていく所存である。
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