生命機能の発現機構を分子レベルで理解し、効果的に制御するための新しい方法論の開拓が求められている。これに対して、本研究では、これまでに我々が見いだした、様々なアジド基が示す特異な反応性や、環状アルキンの反応性制御法を利用した逐次連結法をさらに発展させることで、生命科学研究に役立つ実用的な分子連結手法の開発に取り組んだ。 令和2年度は主に2つの課題に取り組み、以下の成果を得た。まず、(1)新たなプラットフォーム分子の創製とそれを利用した逐次クリック反応を開発した。以前に我々は、異なる3種ないし4種のアジド基を有するマルチアジドプラットフォーム分子を利用する逐次クリック反応の開発に成功している。これに対して今回、異なる3種のアルキン部位を有するトリアルキンプラットフォーム分子を新たに設計し、その簡便合成に成功した。実際に、このプラットフォーム分子に対して、3種類のアジド化合物を逐次連結することにも成功し、3分子を簡便に集積する手法を開発した。今回開発したプラットフォーム分子は、これまでのものと比べて極めてコンパクトであることから、疎水性が低減した多機能性分子の創製や、小~中分子ライブラリーの構築に有効である。また、(2)アジド化合物とのクリック連結に有用なシクロオクチンの簡便合成法の開発に成功した。具体的には、アルキンのコバルト試薬との錯形成による保護により分子内環化が促進される反応、および、コバルト錯体の効率的な脱保護条件を確立し、短工程でのシクロオクチン合成経路を確立した。本手法は多機能性シクロアルキン類の合成へ応用できると期待される。
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