本研究では、種々の非構造性たんぱく質(IDPs)が介在するたんぱく質相互作用の化学操作を可能とする人工有機分子の創出と生理活性作用機序の解明を目的としている。最終年度となる2020年度は、①脂質修飾酵素FTaseおよびGGTase-Iの活性ポケットとK-Ras C末端領域と作用面の2か所を1分子で認識する複素環含有2座型化合物を合理設計することにより、両酵素に対してピコモルレベルの非常に強力な阻害剤を開発することに成功した。これまでに開発してきたK-Ras脂質修飾阻害剤を凌駕する活性であり、IDPたんぱく質間相互作用を標的とする本戦略の有用性を示すことができた。②については、前年度までに見出されたBMAL1/CLOCKヘテロ2量体形成阻害剤の作用機序を詳細に検討した。その結果、化合物が揺らいだ構造を持つBMAL1のシステイン残基に親電子置換反応し、CLOCKとの相互作用を阻害していることが明らかになった。加えて、HIFたんぱく質の結晶構造とのホモロジー解析から、化合物はBMAL1の隠された疎水性ポケットに存在するシステイン残基に反応している可能性が強く示唆された。以上のように、in vitroスクリーニング系を用いたライブラリ探索と機能解析の結果から、コバレント阻害剤がIDPの制御に有用であることを示す重要な知見を得、英国化学会速報誌に論文発表した。③については、天然物フシコクシンの半合成構造改変と構造活性相関研究を実施し、フッ素含有誘導体が従来の誘導体に比べて非常に強い細胞毒性を示すことを見出した。抗腫瘍活性を含めて詳細を検討する予定である。
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