研究課題/領域番号 |
18H02107
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堂野 主税 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (60420395)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リボザイム / RNA分子糊 / RNA結合リガンド / RNA高次構造 / 光スイッチ |
研究実績の概要 |
本研究では、標的RNAと結合することによりその構造変化を誘導することのできる小分子リガンド「RNA分子糊」を用いて、遺伝子発現調節RNAスイッチを構築する。RNA分子糊によるリボザイム(RNA鎖切断を触媒するRNA酵素)の高次構造制御と活性制御を介して、遺伝子発現の精密制御、すなわち、1)抑制(OFFスイッチ)、2)促進(ONスイッチ)、3)双方向切り換え(光刺激による可逆的スイッチ)、を実現し、RNA結合リガンドを基盤とした合成生物学的システムを確立する。 本年度は、研究代表者のもつ既存のRNA分子糊であるZ-NCTSの存在下、活性化されるリボザイムを用いて、項目1)、リボザイム活性化により遺伝子発現が抑制されるOFFスイッチの創製を中心に行った。まず、遺伝子発現調節のスイッチとなるリボザイムの最適化を実施するため、改変配列を含むリボザイム群を酵素法・化学合成法により調製し、RNA分子糊Z-NCTSの添加時におけるリボザイム活性評価を行った。Z-NCTSの存在下、活性化されたリボザイム配列を、レポータータンパク質の3’非翻訳領域に挿入したプラスミドを合成し、ヒト培養細胞にトランスフェクションすることで遺伝子発現調節の評価系を構築した。インキュベーション条件やリボザイム周辺配列などを種々検討、最適化を進めた結果、Z-NCTS添加時において、レポータータンパク質の発現量が7割減少する発現抑制(OFF)型RNAスイッチの構築に成功した。また、観測された発現調節が、実際にZ-NCTSの結合に依存したリボザイム活性制御に基づく作用機序であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、RNA結合分子(分子糊)が駆動する遺伝子発現抑制(OFF)スイッチ構築に向けて、その調節機構の核となるリボザイムの最適化実施のために、改変を含むリボザイム群を酵素法・化学合成法により調製し、研究代表者のもつ既存のRNA分子糊であるZ-NCTSの存在、非存在下での、リボザイム(RNA切断触媒反応)活性変化を評価した。Z-NCTSの存在下、活性化されるリボザイムを選択し、リボザイム活性化により遺伝子発現が抑制されるOFFスイッチの設計を行った。RNA分子糊応答性のリボザイム配列を、レポータータンパク質(ルシフェラーゼ)の下流に挿入したプラスミドを合成し、Hela細胞にトランスフェクションすることで遺伝子発現調節の評価系を構築した。Z-NCTSの添加量、方法、タイミング等のリガンド条件、リボザイム配列とルシフェラーゼmRNAとの接続部位やスペーサー配列などの周辺配列などの条件を種々変更した実験系を用い、化学発光を測定することによりルシフェラーゼ発現量を追跡した。結果、リボザイムの3分枝構造のステムIやIIIを介して、ルシフェラーゼmRNAの3’非翻訳領域に接合した系において、Z-NCTS濃度に依存して発現量が7割程度まで減少することを明らかにした。結合部位を持たないリボザイムや、結合部位を持つが活性を持たないリボザイムを用いると、Z-NCTSによるルシフェラーゼ発現量は変化しなかったことから、先に観測された発現調節は、Z-NCTS依存的なリボザイム活性制御に基づく作用機序であることが確認された。本成果は、Z-NCTS応答性リボザイムを基盤としたシステムが、ヒト培養細胞において機能する抑制(OFF) 型RNAスイッチの構築に有効であることを実証するものであり、概ね当初の計画通りに進行していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度構築したリボザイムの合成法、配列設計の知見をもとに、遺伝子発現抑制型のRNAスイッチ(OFFスイッチ)の最適化をさらに進める。また、当初計画に従い、本システムを発展させ、促進型(ONスイッチ)、双方向切り換え型(光刺激による可逆的スイッチ)の発現系を構築する。本研究で創成する遺伝子発現スイッチは、RNA結合リガンドとその結合に伴う機能性RNA制御が基盤としており、結合親和性、選択性、生体適合性(毒性、透過性)、双方向切り換え型で重要となる光応答性などに優れたRNA結合リガンドの創製も不可欠である。RNA結合リガンドの新規創製や化学構造最適化についても合わせて推進する。
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