研究課題/領域番号 |
18H02112
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
南澤 究 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70167667)
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研究分担者 |
三井 久幸 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (40261466)
菅原 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90742776)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 根粒菌 / エンドファイト / 窒素固定 / エフェクター誘導性免疫 / 実験室進化 / ブラディリゾビウム属 / ダイズ / ソルガム |
研究実績の概要 |
ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属細菌は窒素固定・植物共生などの多様な特徴を持ち、土壌植物系の陸域環境に柔軟に適応するキーストーン細菌であるが、その柔軟な適応戦略機構については明らかになっていない。本研究では、Bradyrhizobium属細菌の宿主適応を支える「根粒菌の動的な共生アイランド構造」と「窒素固定エンドファイトと根粒菌の共有システム」について、主に実験室進化系により解明することを目的とした。 (i) Bradyrhizoboium属根粒菌の共生アイランドの動的進化の解明 本年度はBradyrhizoboium diazoefficiens USDA122株、USDA110株、B. japonicum J5株の実験室進化実験について集中的に行った。その結果、種々の挿入配列の種々のコピー間における欠失が観察され、共生不和合性を克服する変異体がダイズ根周辺または培養過程で生成していることが明らかになった。 (ii) Bradyrhizobium属の窒素固定エンドファイトと根粒菌の共有進化 圃場生育ソルガム根から二種類の方法で、Bradyrhizobium属細菌の分離を行った。ソルガム根の摩砕液の希釈系列を低栄養培地の寒天プレートに直接取得し形成されたコロニーの16S rRNA遺伝子配列を決定し、Bradyrhizobium属と同定された細菌株を取得した(直接分離法)。さらに、その表面殺菌したソルガム根摩砕液をダイズに接種し、形成された根粒からBradyrhizobium属細菌を分離した。したがってBradyrhizobium属の窒素固定エンドファイトと根粒菌の共有進化の材料を獲得することができた。直接分離株について、半流動培地による窒素固定能発現をアセチレン還元法およびnifV遺伝子PCRで検出する手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i) Bradyrhizoboium属根粒菌の共生アイランドの動的進化の解明 本来Rj2共生不和合性を示すB. diaozefficiens USDA122株のRj2ダイズHardeeの接種実験を大規模に行い、低頻度形成根粒から変異体を分離し、ドラフトゲノムのマッピングとPCRの解析を行った。その結果、B. diaozefficiens USDA122株では35株の変異体が取得され、ドラフトゲノムのマッピングにより挿入配列ISRj1とISRj2を介する9パターンの新規欠失株が得られた。さらに、B. diaozefficiens USDA110株とB. japonicum J5株についても同様の実験を行ったところ、ISRj1およびISBj12のコピーを介する6パターンの新規欠失株が得られた。これらの新規欠失株の15パターン中12パターンは窒素固定遺伝子群(nif)も欠失しており、ダイズへの接種実験の結果からも共生窒素固定能を失っていることが証明された。
(ii) Bradyrhizobium属の窒素固定エンドファイトと根粒菌の共有進化 窒素固定活性が検出された圃場栽培ソルガム根を表面殺菌し、懸濁液をダイズに接種し、形成根粒からHM寒天培地によりBradyrhizobium属「根粒菌」を多数純粋分離することができた。ソルガム根から直接取得したそれらの分離株の16S rRNA遺伝子配列からBradyrhizobium属と同定された株も取得し、共有進化実験の材料を獲得した。特に、自由生活の培養で窒素固定能を発現しないダイズ根粒菌と自由生活窒素固定型のBradyrhizobium属細菌のアセチレン還元能を半流動培地とnifV_PCRで調べる実験方法を検討し、ソルガム根から直接分離されたBradyrhizobium属細菌の自由生活の窒素固定能発現を検討する実験系を確立した
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今後の研究の推進方策 |
(i)Bradyrhizoboium属根粒菌の共生アイランドの動的進化の解明 Bradyrhizoboium diazoefficiens USDA122株、USDA110株、Bradyrhizoboium japonicum J5株の実験室進化を行い、挿入配列ISを介したrhc遺伝子やnif遺伝子を含んだ共生アイランドの部分欠失株を多数獲得できた。今後の課題として、この挿入配列介在型の欠失が、培養過程またはダイズ根圏のどちらで生成しているか明らかにする必要がある。また、共生アイランドのモザイク状の変化は、欠失型変化のみでなく獲得型の変化が起きていないと説明がつかず、共生アイランド内の獲得型変化の実験による検出について検討を行う。
(ii) Bradyrhizobium属の窒素固定エンドファイトと根粒菌の共有進化 本年度は、ソルガム根由来のBradyrhizobium属菌材料確保と自由生活における窒素固定能発現の実験系の確立を行った。また、ソルガム根におけるBradyrhizobium属細菌の窒素固定に関するオーミックデータの解析と論文公表を行った。今後は、共生アイランドとゲノムコアの両方にnif遺伝子群を持つハイブリッド型の探索を目指して、ソルガム根由来のBradyrhizobium属細菌のゲノム解析と窒素固定能発現の解析を進める。
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