多面発現とは、一つの遺伝子の産物(つまりタンパク質)が複数の生命現象・生命機能に関わることにより生じる。本研究で対象としたSTOP1転写因子は、酸性条件で根の伸長が抑制される変異体の原因遺伝子として単離された。この転写因子は、アルミニウム耐性や、冠水耐性、リン酸・鉄栄養による根の形態変化、乾燥耐性などに関わることが、この研究の代表者の成果も含めて明らかとなっている。これは、1)転写制御するリンゴ酸輸送タンパク質により根圏に放出されるリンゴ酸自体が”多機能分子であること”、2)同じ輸送体がGABAも輸送すること、3)窒素、カリウム、硫酸などの代謝・吸収を制御する経路の重要分子を転写制御すること、などによるものである。これらの被制御形質が、ストレス耐性を制御するため、極めて多くの表現型がSTOP1によって制御されることが明らかとなった。令和2年度(3年度は出版の遅れに関する延長)は、このSTOP1制御が施肥管理バイオマーカーに使用できることと多面発現の進化学的な解釈に関する論文(総説)を作成するとともに、アルミニウムシグナル伝達におけるSTOP1転写制御に関する研究を進めて、1)STOP1が極めて短時間で核移行して標的遺伝子のプロモーターに結合すること、2)STOP1転写制御は冗長性が高い転写因子ファミリーとの共制御により”特異的発現”を可能としていることを明らかにした。前者は、細胞生物学的な解析によるものであり、後者はGWAS(遺伝解析)によるものである。
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