研究課題
水田土壌中の微生物が極めて安定で頑健な群集を形成しているメカニズムの解明を目指し、田畑輪換圃場に注目し、田畑輪換による畑転換・水田復元に伴う各種土壌微生物群集の動態を長期間にわたり調査・解析する。田畑輪換の管理で生じる畑転換と水田復元が群集の存在量と構成に及ぼす影響や、群集の動態とその変化に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする。農研機構東北農業研究センター大仙研究拠点(秋田県大仙市)内の長期田畑輪換試験圃場の輪換区と対照の連年水田区より、水稲あるいはダイズの生育中(6月)、収穫後(10月)の2回作土層土壌を採取し、DNAおよびRNAの抽出用試料として調製・保存した。輪換区については2019年はダイズ作後水稲作に戻され3年目の水田から再度ダイズ畑へと転換された初年目、2020年はダイズ作2年目である。2008年から2019年(2010年は除く)の12年間にわたり採取した試料について16S rRNA遺伝子を対象にした定量PCR法によりGeobacteriaceae科およびAnaeromyxobacter属鉄還元菌の存在量を調査した。輪換区はこの期間中2回の水田復元を挟み3回畑転換が行われている。輪換区のGeobacteriaceae科鉄還元菌は畑作期間に連年水田区よりも約1-2桁低下し、水田期間には連年水田区とほぼ同程度にまで増加した。輪換区の全細菌の存在量は連年水田区よりも低かったがその差は1桁以内であり、Geobacteriaceae科鉄還元菌が畑転換の影響を大きく受けていることが示された。輪換区のAnaeromyxobacter属鉄還元菌は畑作期間に連年水田区よりも低下する傾向があったがその差はほぼ1桁以内であり、Geobacteriaceae科鉄還元菌とは異なる動態を示した。以上より、鉄還元菌の中でも畑転換に対する菌群動態の応答が異なることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスの感染拡大のためダイズあるいは水稲の播種・移植前(4月)の土壌試料の採取ができなかったが、水稲あるいはダイズの生育中(6月)と収穫後(10月)には対象とする田畑輪換試験圃場より継続的に土壌試料の採取を続けることができた。また、2008年から2019年にかけて12年間にわたる試料について、畑転換の大きな影響を受けると考えられる鉄還元菌群の動態の特徴を明らかにすることができ、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
輪換区については2021年は畑転換3年目のダイズ畑となる予定であり、畑転換後の微生物群集の経時変化を解析するための試料採取と解析を進めていく予定である。ダイズあるいは水稲の播種・移植前の試料については、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限措置が厳しくなる前に出張し採取を行った。今後も感染拡大状況を勘案しながら試料採取のための出張可能時期を見極め、対象とする田畑輪換試験圃場より土壌試料の採取を継続し、得られた試料の解析を行っていく予定である。
第65回(2020年度)日本土壌肥料学会賞受賞([一社]日本土壌肥料学会、2020年5月、受賞タイトル:水田土壌生態系におけるメタンの生成・酸化に関わる微生物の生態に関する研究)
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日本土壌肥料学雑誌
巻: 91 ページ: 309~312
10.20710/dojo.91.5_309