研究実績の概要 |
原始的葉緑体表層の機能・構造は系統的に全く異なる細菌由来の分子機構が共存して成り立っていると示唆されている。本年度は藍藻及び葉緑体の表層膜安定化機構の分子基盤解明を目的とした。①藍藻Synechocystis sp. PCC 6803のペプチドグリカン(PG)結合型外膜タンパク質Slr1841, Slr0042, Slr1908それぞれを発現抑制すると、Slr1841の発現抑制時に顕著な生育抑制と細胞形態の異常が起こった。Slr1841はPG結合糖鎖に接着するSLHドメインを持つため、本表現型はPG結合糖鎖とSLHドメインとの接着作用の欠失によると推察した。そこでPG結合糖鎖の生合成に関与すると予想されていたSlr0688の発現を抑制すると、Slr1841抑制細胞と同様の表現型を示した。このことから、表層膜安定化の分子的基盤はSlr1841のSLHドメインとPG結合糖鎖との接着作用であることが示唆された。②藍藻の表層膜安定化機構の比較対象として、Cyanophora paradoxa の葉緑体(Cyanelle)の解析も並行して行った。CyanelleにはSlr1841およびPG結合糖鎖のいずれも存在しないが、その替わりにPG結合型ポリアミンが表層膜の安定化に寄与する。PG結合型ポリアミンをノルスペルミジン処理により欠失させたあと、PG結合性外膜蛋白質であるCppS/FのPG結合量を解析した。その結果、処理後にCppS/Fの結合量が顕著に低下していることがわかった。このことから、PG結合型ポリアミンがCppS/FのPGとの相互作用に直接関与することが示唆された。本年度の研究により、藍藻及び葉緑体で機能する表層膜安定化機構の分子基盤をより詳細に理解、当初の予想通り藍藻から葉緑体への進化過程で表層膜の構造・機能に極めて大きな変化があったことがより確実に裏付けられた。
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