研究実績の概要 |
昨年度までに、Pseudomonas resinovorans CA10dm4株におけるプラスミド非感受性の発動には、硫黄代謝系の主要転写制御因子CysBに加え、CysBの下流で機能する硫黄代謝系転写因子SfnRと相同性が高い三つの転写制御因子(SpiR1, R2, R3と命名)が重要であることが明らかにされていた。2020年度は、転写開始点の決定とプロモーター配列の詳細な解析により、spiR1とspiR2遺伝子はCysBにより転写誘導が直接制御されることが示された。同様に決定されたspiR3遺伝子のプロモーター領域には、他のPseudomonas属細菌でSfnRが結合するターゲットとしてと報告されている配列の類似配列が見いだされ、spiR3のプロモーター領域にSpiR1とSpiR2のいずれか、または両方が結合する可能性が示された。実際に、両タンパク質のspiR3のプロモーター領域への結合がゲルシフトアッセイにより示され、CysBからSpiR1/SpiR2を経てSpiR3と繋がるシグナル伝達系が非感受性発現に働くことを明らかにした。また、破壊株を用いたRNA-Seq解析の結果、SpiR3の下流にはTCAサイクル関連遺伝子(一次代謝系、エネルギー代謝)や重金属代謝に関わる遺伝子が存在することが明らかになり、CysBに始まる一連のシグナル伝達経路の全貌を明らかにすることに成功した。 上で得られたCA10dm4株の非感受性メカニズムと類似のシグナル伝達経路はプラスミド感受的な他のPseudomonas属細菌にも存在する。そこで、感受的な株でそれらのシグナル伝達系がどう転写変動し、CA10dm4株とどう違うのかをRNA-Seq解析で明らかにした。その結果、硫黄代謝系や重金属代謝系遺伝子群の転写レベルがプラスミド保持直後から変動することは共通していたが、接合伝達後に培養時間に従って起こる変化の内容に大きな違いが存在し、さらにCA10dm4株では比較的早期に転写変動が収まるのに対して、他のPseudomonas属細菌では接合後数日を経ても転写変動が継続する傾向が認められた。
|