本研究は形態的に最も複雑に進化したバクテリアである希少放線菌Actinoplanes missouriensisを対象に、その運動性胞子の形成・休眠・覚醒・運動制御に着目し、環境に応答した遺伝子発現制御機構および細胞内シグナル伝達機構の解明に取り組むことで、微生物細胞の巧妙な生存戦略を明らかにすることを目的としている。以下に本年度の主要な成果を小課題ごとに記すが、共通の基盤成果として、生活環の11のタイムポイントにおけるトランスクリプトーム解析(転写開始点の決定を含む)を行い、胞子嚢形成・開裂、遊走、発芽、栄養増殖における遺伝子発現の全体像を明らかにした(2019年度「ゲノム支援」の成果を含む)。 小課題(1) 胞子嚢・胞子形成に関わる遺伝子群の発現制御機構の解明 昨年度見出したFliA標的遺伝子に関しては、これらの遺伝子と胞子嚢形成の関与を否定する結果が得られた。SsgB(Streptomyces属放線菌の胞子隔壁形成に必須な低分子量酸性タンパク質のオルソログ)が胞子嚢形成に必須な機能をもつことを示した論文を投稿し、現在、リバイス実験を行っている。 小課題(2) 胞子の休眠と覚醒の分子機構の解明 胞子嚢内で胞子の休眠に関与するTcrA-HhkA(His-Aspリン酸リレー型の応答制御因子とHisキナーゼ)系について、リバイス実験を行い、論文発表した。一方、胞子の休眠に関与するシグマ-アンチシグマ系に関連する制御因子として二成分制御系応答因子を同定し、本因子が胞子の休眠維持に重要な機能を有していることを明らかにした。 小課題(3) 運動性胞子の運動制御機構の解明 べん毛アセンブリに必要なチオレドキシン様タンパク質(AMIS75470)およびAMIS_1780に関して、サプレッサーとして取得した遺伝子の解析を行い、2つの遺伝子が真にサプレッサーとして機能していることを示した。
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