研究課題/領域番号 |
18H02124
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 寛 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60222113)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | エネルギー代謝ステート / 大腸菌 / シアノバクテリア / 中央代謝経路 / 明暗環境応答 |
研究実績の概要 |
本研究は、微生物細胞が内的・外的な環境変化に応じて引き起こす大規模な代謝状態の変換プロセス(代謝ステート遷移)に注目し、その分子機構の解明を目的としている。 1)従属栄養バクテリアとして大腸菌を用い、エネルギー源として資化する炭素源変化に対応した代謝ステート機構の研究を進めている。限定量のグルコースとカザミノ酸を炭素源とするバッチ培養系では、グルコース枯渇後にアミノ酸へと炭素源シフトが起こる。酢酸オーバーフロー代謝経路のpta、ackAがこのシフトに必要なことを見出したのが本研究の発端であるが、本年度の研究でプロテオーム解析を行った結果、細胞内のピルビン酸濃度の上昇がこの表現型の原因であることが示唆された。また、ピルビン酸蓄積に応じてピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)遺伝子群の発現を抑制するPdhRの過剰発現によりpta/ackAの影響が解消したことから、PDH発現の過剰が代謝ステート遷移の阻害原因であることが明らかとなった。PDH活性と2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(OGDH)活性が競合的な関係にあり、さらにOGDHの活性化が代謝ステート遷移に必須であることから、酢酸オーバーフロー代謝はPDH/OGDHの調節を介して代謝ステート遷移を可能としていることが明らかになった。 2)光独立栄養のシアノバクテリアは光を主要なエネルギー源とするが、暗所では異化的糖代謝にエネルギー源を切り替える。本研究では、明暗シフトに伴う転写活性化を足掛かりに代謝ステート遷移の機構解明を目指している。本年度の研究では暗所転写活性化に関わる因子の一つSigF2を中心に解析を行い、恒光状態からの暗シフトと時計同調状態での暗シフトでの挙動が大きく異なることを確認した。現在、明暗応答について、生物時計をその中心因子として捉え直した代謝ステート遷移のモデル構築を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌の酢酸オーバーフロー代謝がどのようにしてグルコース後の代謝ステート遷移に必要であるかについて、研究開始時には具体的な仮説は立てられていなかった。しかし、今年度の研究によりピルビン酸の蓄積からPDHの過剰な発現、OGDH活性の抑制までの筋道を示すことができたことは大きな進展であった。一方で、シアノバクテリアでは生物時計の関与が予想よりも大きかったことから、今後の研究では生物時計を常に意識すべきであることが判明した。これは研究としては進展であるが、当初の予定よりは仕事の増えた分は進行に時間を要すこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
大腸菌の代謝ステート遷移では、ステート遷移を阻害する原因側の謎は解けつつある。一方で、この制御の中核にあるPDHとOGDHの活性制御、活性間の相互作用については未だ説明できないポイントが多く、注力する必要がある。また、OGDHの活性化によりどのように代謝ステート遷移が完結するかが今後の大きな課題となってきた。代謝ステート遷移の前後では解糖系フラックスが糖新生の方向へと逆転する。現在までの解析で、この逆転プロセスにOGDHが関与する状況証拠が得られており、今後の解析では糖新生酵素の活性化とOGDH活性の関連性を調べていく予定である。 シアノバクテリアの明暗応答の解析では、今年度は生物時計の関与を中心的に調べていく。具体的には時計の本体であるkai遺伝子やシグナル伝達因子であるrpaA遺伝子の変異体を用いて、明暗応答と生物時計との関連を一つずつ解析していく。また、生物時計を含めた明暗応答とNADPH/NADP+のような基本パラメーターについても解析を継続する。
|