研究課題
多くの微生物ではエネルギー獲得系は一つの方式だけでなく、複数の方式を状況に応じて使い分けるハイブリッド型のシステムとなっている。本研究ではこのようなバクテリアにおけるエネルギー獲得代謝の切り替え(エネルギー代謝ステート遷移)機構について研究を進めている。1)従属栄養バクテリアとして大腸菌を用い、エネルギー源として資化する炭素源変化に対応した代謝ステート機構の研究を進めた。限定量のグルコースとカザミノ酸を炭素源とするバッチ培養系では、グルコース枯渇後にアミノ酸へとエネルギー炭素源シフトが起こる。この際、アセチルCoAから酢酸へ流れるオーバーフロー代謝を欠損した株で、この代謝シフトが強く阻害されることを見出したのが本研究の発端である。解析の結果、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(OGDH)の活性化が代謝シフトに必要であり、オーバーフロー代謝の欠損によりこれが阻害されていること。オーバーフロー代謝の欠損は細胞内ピルビン酸の蓄積を引き起こし、これがOGDHと競合関係にあるピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)発現を誘導することで、結果としてOGDH活性が阻害されていること。オーバーフロー代謝により生成する酢酸が、分子機構は不明であるがグルコースからアミノ酸への代謝シフトを促すことなどが明らかになった。2)光独立栄養のシアノバクテリアは明所で光を主要エネルギー源とする微生物だが、暗所では異化的糖代謝にエネルギー源をシフトする。本研究では、明暗シフトに伴う転写活性化を足掛かりに代謝ステート遷移の機構解明を目指している。本年度の研究では明暗シフト時の転写活性化に関わるSigF2機能に関して、RNAseq解析による標的遺伝子同定を行った。また、明暗シフト時のNADP+/NADPHの平衡状態などの生理学的パラメーターの測定を行い、明暗シフトに伴う代謝ステート遷移のモデル構築を進めている。
2: おおむね順調に進展している
大腸菌のエネルギーステート遷移に関しては、細胞内ピルビン酸の蓄積に由来するPDH過剰発現と活性上昇が原因と一旦は結論づけた。しかしその後の解析で、培地への酢酸添加によりステート遷移が回復することを見出したことから、PDHとOGDHの活性調節は発現量だけで決まるのではなく、酢酸の関与する複雑な分子機構の存在が見えてきた。シアノバクテリアの明暗シフト時のエネルギーステート遷移に関しては、現在までに主要な生理学的変化の洗い出しを進めており、全体像の構築に着実に近づいている。
大腸菌の代謝ステート遷移では酢酸が重要な役割を果たすことが見えてきた。酢酸はオーバーフロー代謝を介して生成される物質であり、グルコース代謝時には細胞外に捨てられる。オーバーフロー代謝を欠損した大腸菌ではこの細胞外の酢酸蓄積が起こらないが、この一旦排出された酢酸が何らかの機構でOGDHの活性化に作用することが示されたことになる。この際の酢酸の作用には酢酸代謝酵素は必要なく、酢酸分子そのものが活性の本体であることが示唆されている。最終年度の研究では、この酢酸の作用機作を中心に代謝ステート遷移分子機構の全体像を明らかにしていく。シアノバクテリアの明暗シフトでは、SigF2の発現と活性制御機構を中心に、光変化から起こる生理学的パラメーター変化から制御因子への連結を確認していく。
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