研究課題/領域番号 |
18H02125
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小林 哲夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20170334)
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研究分担者 |
國武 絵美 三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (30800586)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンカタボライト抑制 / 糸状菌 / 多糖分解酵素遺伝子 / cAMPシグナリング / パラログ間競合 |
研究実績の概要 |
糸状菌Aspergillus nidulansのカーボンカタボライト抑制(CCR)には転写抑制因子CreAが主として機能することが知られていたが、これとは独立してcAMP情報伝達系構成因子であるGanBとPkaAが関与することが明らかとなった。その根拠としては、まずアミラーゼ遺伝子とセルラーゼ遺伝子のCCRにおける各因子の貢献度の違いがある。すなわち、前者のCCRはCreAにより制御されていたが、後者ではCreAの貢献度は低くGanBとPkaAが主として機能していた。さらに、様々な培養条件下でのセルラーゼ遺伝子の詳細な転写解析では、各因子の貢献度は誘導物質や抑制物質の種類、プレート培養と液体培養の違いなどで変化した。従って、CCRには複数の制御システムが関わり、これらの起動状況が培養条件によって変化することになる。今後はこの複雑なCCRの全体像を把握することが重要になってくる。 A. nidulansにおけるセルラーゼ遺伝子の転写活性化因子であるClrBには遺伝子重複により生じたパラログ因子が存在する。本パラログは主としてマンナナーゼ遺伝子の発現誘導に関与する。これら因子の遺伝子破壊株の解析からClrBはセロビオースとマンノビオースに応答して転写活性化を引き起こすことが可能であるにも関わらず、マンノビオース存在下ではパラログ因子がClrB依存的転写を妨げた。これはパラログ間競合による新奇なCCRの存在を示している。これら因子のDNA結合ドメインのアミノ酸配列は極めて類似していたため認識配列を決定したところ、それぞれに特異的な配列と共通な配列が存在することが明らかとなった。共通配列への結合が競合しこれによりCCR類似の現象が引き起こされる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事前研究の結果から構築したカーボンカタボライト抑制(CCR)に関する推定シグナリング経路の証明から研究を開始したが、当初予想よりはるかにメカニズムが複雑であることが明らかとなった。そのため、研究は計画通りには進行しなかったが、様々な培養環境下における3種のCCR関連因子(CreA、PkaA、GanB)の転写抑制への貢献度を詳細に解析し、CCRの複雑性に関する論文の公開に至ったことは十分な成果と考えている。また、この結果は産業用酵素生産において用いる培地の組成や培養条件により生産低下の原因となるCCRのメカニズムが異なることを意味しているため、応用微生物学的観点での本研究の重要性は増したと言える。 一方、転写因子パラログ間の競合による新奇なCCRに関しては、2018年度計画には含まれていなかったがClrBパラログ(ManS)の認識配列の決定を行い、事前に明らかとしていたClrBの認識配列とManSの認識配列が一部共通することを見出した。これは競合がDNA結合の段階で起こることを示唆する結果であるため、この点に関する解析を2019年度に行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は当初計画とほぼ同様であり、後回しになってしまったCCRに関わるGタンパク質共役受容体(GPCR)を同定し、それが認識する糖類を明らかにする。また、CCRに関わる他因子の探索を行い、見出された因子については様々な培養環境でのCCRへの関与の程度を検証することによりCreA、PkaA、GanBとの類似性を探り、CCR情報伝達経路のモデルを構築する。2018年度の研究でCCRの複雑性とこれに関わる環境因子が明らかとなってきたため研究は効率的に進められると考えられる。一方、複雑さゆえに実験量の大幅な増加は否めず、状況によっては実験条件を制限せざるを得ない可能性はある。 転写活性化因子パラログ間の競合に関しては、ClrBとManSには独立した標的配列と共通の標的配列が存在することが明らかとなったため、共通配列がこの阻害に関わる可能性について検証する。
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