研究課題/領域番号 |
18H02126
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
片山 高嶺 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (70346104)
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研究分担者 |
加藤 紀彦 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40724612)
神戸 大朋 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (90303875)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共培養 / 偏性嫌気性細菌 / 腸上皮細胞株 |
研究実績の概要 |
腸内細菌叢が、ヒトの健康・疾病に大きな影響を及ぼすことが明らかとなってきており、両者の相互作用を分子レベルで解明することが重要と考えられる。腸内細菌研究においては、マウス等の動物を用いた宿主側からのアプローチが主流となっているが、申請者は、腸内細菌側からのアプローチも同様に必要であると考えている。しかしながら、腸内細菌側からアプローチするための良い研究ツールが無く、このことが本領域の問題点となっていた。 そこで本研究では、ヒト腸上皮細胞とヒト腸内細菌のin vitro共培養装置を開発することを目標とし、そのツールとしての有効性を検討すると共に、得られた成果を応用展開することとした。平成30年度においては、共培養装置を用いることで、単層化させたCaco-2細胞の頂端膜側を無酸素状態、基底膜側を好気状態とすることが可能であることを確認した。アピカル嫌気条件下で培養したCaco-2細胞は、通常のCO2インキュベーターで培養した際と比べて同等の経上皮電気抵抗値を示し、また抗クローディン抗体を用いた免疫染色において正常なタイトジャンクションを形成していることが明らかとなった。さらに電子顕微鏡による観察においても、通常培養と同等の細胞形態が観察された。そこで、本装置を用いてCaco-2細胞の頂端膜側に偏性嫌気性細菌を添加したところ、細菌の増殖が観察され、すなわち腸上皮細胞と腸内細菌の共培養可能であることを確認した。本装置を用いることで、ヒト腸上皮細胞とヒト腸内細菌のクロストークを分子レベルで理解すること、および得られた結果を医薬品開発や健康補助食品開発へと展開させることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アピカル嫌気培養は全く新しい培養手法であるために、どのような結果が得られるかについて予測することが不可能であったが、本培養装置を使用することで5日間にわたって頂端膜側を嫌気性に、基底膜側を好気的(溶存酸素濃度が60%以上)に維持させることが出来た。この5日間の培養期間中においてCaco-2細胞を健全に保持させることが出来たことは本培養装置と培養手法の有効性や将来性を考えるうえで特筆に値する。また、偏性嫌気性細菌と腸上皮細胞株を共培養することが可能となっただけでなく、共培養によって偏性嫌気性細菌の増殖が著しく促進されたことも非常に興味深い。おそらく、両者間には物質を介したクロストークがあると推察され、これを解明することは腸内細菌と宿主の共生を解明する上で重要な糸口となることが予想される。しかしながら、使用したCaco-2細胞において、少なからず炎症反応が起こっていることが伺われたため、今後は、ムチン層の導入などを検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
アピカル嫌気培養装置を研究ツールとして確立させるためには、その有効性を示すこと、すなわち本装置を用いて、共生やdysbiosisを担う因子を同定し、そのメカニズムを分子レベルで明らかとすることが必要である。今後は、プロバイオティクス菌との共培養時におけるCaco-2細胞の応答や、病原菌との共培養時におけるCaco-2細胞の応答についてRNA-seqやメタボロームなどの網羅的解析を行うと共に、細菌側の遺伝子発現応答なども調べる予定である。また、メンブレンベシクルやエクソソームなどにも着目して、両者の相互作用を解析したい。加えて、上述した通り、頂端膜側にムチン層を導入することで、より実際の腸内環境に近い状態での共培養を可能としたい。腸内細菌の半数以上がこれまで単離培養できていないことを考えると、本培養装置は、これら難培養性細菌の単離にも利用できる可能性がある。糞便サンプルを用いた共培養後に、16S rRNA遺伝子を用いた菌叢解析を行い、得られたOTUを解析することで難培養性細菌やminority speciesの増殖を調べる予定である。
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