研究課題/領域番号 |
18H02127
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体膜 / リン脂質 / リゾホスファチジン酸アシル基転移酵素 / PlsC |
研究実績の概要 |
リゾホスファチジン酸のsn-2位へのアシル基転位を触媒するリゾホスファチジン酸アシル基転移酵素(LPAAT)は、リン脂質アシル鎖の多様性創出において主要な役割を果たす。Escherichia coliでは、従来、1種類のLPAAT (PlsC)のみが見出されていた。一方、本研究代表者らは、低温菌Shewanella livingstonensis Ac10が5種のLPAATホモログ(PlsC1-5)を有し、PlsC4が分岐鎖脂肪酸のリン脂質への導入を担うことを示すとともに、E. coliの機能未知タンパク質YihGがPlsC4と39.1%の相同性を持つことを見出した。そこで、E. coliのYihGの機能解析を行った。まず、E. coliのPlsCの温度感受性変異株にYihG高発現プラスミドを導入し、非許容温度における生育を調べた。その結果、YihGの高発現で本株の生育不全が抑制されたことから、YihGがLPAAT活性を有すると考えられた。次に、YihG高発現株とPlsC高発現株のリン脂質sn-2位のアシル鎖組成を解析した。その結果、YihG高発現株ではミリスチン酸(14:0)とcis-バクセン酸(18:1Δ11)の相対量がPlsC高発現株と比較して有意に高かった。このことから、YihGは14:0と18:1Δ11に対する活性がPlsCよりも高いと考えられた。一方、E. coliのyihG欠損株のリン脂質sn-2位のアシル鎖組成を解析した結果、18:1Δ11の相対量が野生株と比較して有意に低かったことから、生理的条件下においてYihGは18:1Δ11をリン脂質に導入すると考えられた。さらに、運動性をもつ細胞の割合と遊泳速度がyihG欠損によって増加することが見出された。以上から、YihGによって調節される膜リン脂質組成がE. coliの運動機能に影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
E. coliにおけるリン脂質アシル鎖多様性創出のメカニズムと生理的意義の解明については、新規リゾホスファチジン酸アシル基転移酵素であるYihGの同定と機能解析によって、計画以上の進展があった。一方、S. livingstonensis Ac10におけるリン脂質アシル鎖多様性創出に寄与するPlsC4とPlsC5については、それらの基質特異性についての知見は得られつつあるものの、生理的意義の解明には至っていないため、総合的には「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
常温菌E. coliと低温菌S. livingstonensis Ac10に加えて、好熱菌Thermus thermophilus HB8を主な対象として、リン脂質アシル鎖多様性創出のメカニズムと生理的意義の解明を進める。E. coliについては、本研究で見出されたYihG欠損による運動性向上のメカニズムについて、特にべん毛構造の形成にリン脂質組成が及ぼす影響の解析を進める。S. livingstonensis Ac10については、機能的な重複の可能性が考えられるPlsC4とPlsC5について二重欠損株を作製し、その表現型を解析する。特に、異なる温度における生育特性や運動性、細胞外膜小胞の生産性に着目した解析を進める。T. thermophilus HB8については、PlsCの酵素学的な特性解明とともに、遺伝子破壊株の表現型解析を進める。
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