研究課題
McpC、McpT、McpAはそれぞれRalstonia solanacearumのクエン酸、酒石酸、アミノ酸の走化性センサーである。R. solanacearumの走化性センサー遺伝子全欠損変異株にそれぞれの遺伝子を単独発現するとmcpAではアミノ酸走化性が復帰するものの、mcpCおよびmcpTは機能しない。ところがmcpC及びmcpTを同時に導入するといずれのセンサーの機能も復帰する。この現象を説明し得る仮説として、①McpCとMcpTはヘテロダイマーを形成することで機能する、②McpC及びMcpTのホモダイマーがヘテロなダイマートリマーを形成することで機能する、③mcpC及びmcpT単独発現ではセンサーアレイが形成できないため機能できない、と考え、それらを検証した。①を検証するためMcpC及びMcpTのリガンド結合部位を大腸菌で発現、精製した後、in vitroでヘテロダイマーを形成するか検討した。しかし精製標品のCDスペクトルを測定したところ、正確にフォールディングしていないことが判明した。③を検証するために全欠損変異株にmcpAとmcpC双方を導入したところ、アミノ酸走化性は復帰したがクエン酸走化性は復帰しなかった。この結果から③の仮説は棄却できることが分かった。次いでリガンド結合部位がMcpA、シグナリングドメインがMcpTのキメラセンサー遺伝子、mcpATを構築した。全欠損株におけるmcpATの単独発現、mcpATとmcpTの同時発現ではいずれの走化性も復帰しなかった。しかしmcpATとmcpCの同時発現でアミノ酸走化性が復帰した。この結果からシグナリングドメインのペアリングが重要であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
抗体によるプルダウンによりin vitroでMcpCとMcpTがヘテロダイマーを形成するか検証したかったのであるが、それぞれのリガンド結合部位が大腸菌での発現で正確にフォールディングしなかったことは、大きな誤算であった。この方法論は有効であるので、発現させる条件や菌株を検討することで今後もチャレンジしていく。また、シグナリングドメインについても同様な方法論でヘテロダイマー形成の検証を行う。このin vitroでのアプローチがうまくいかなかったことから、走化性センサー遺伝子全欠損株ならびに全欠損株の作成の過程で得られた多重破壊株シリーズを宿主とした相補試験を丁寧かつ詳細に行い、上記①、②、③の仮説の検証を行った。この中で、当初の研究計画にはなかったキメラセンサーを用いた相補試験も行った。キメラセンサーを用いたのは、相補試験においてもリガンド結合部位とシグナリングドメインのどちらがペアリングに重要なのかを区別して検証しようと考えたためである。この新規アプローチは非常にうまくいき、少なくともシグナリングドメインのペアリングが機能発現に重要であることを示すことができた。今回はMcpAとMcpCのキメラセンサーを用いたが、今後もっと多種類のキメラセンサーを構築し、相補試験等に投入していきたい。
〇精製標品を用いたin vitroプルダウンアッセイはヘテロダイマー形成の可能性を検証する有効な手段である。したがって、正確にフォールディングしたペプチドを発現させることができるように、発現条件ならびに異種発現に用いる菌株の検討を行う。また2018年度はリガンド結合部位の発現・精製のみを行ったが、今後はシグナリングドメインの発現・精製も試みる。〇2018年度、McpAとMcpCのキメラセンサーが機能し得ることを見出した。これは大きな収穫である。我々が機能を特定した走化性センサーはMcpA、McpCを含め6つある。そこで2019年度はMcpATに加えて新なキメラセンサーを複数種構築し、相補試験に投入する。〇多くの細菌において、走化性センサーは細胞端に局在してセンサーアレイを形成し機能していることが示されている。走化性センサー遺伝子全欠損のバックグランドでMcpCおよびMcpTが単独で機能しないのは、細胞端に局在できていない可能性がある。McpCおよびMcpTとGFPの融合蛋白質を用いてこの可能性を検証する。この実験には、McpCおよびMcpTを同時発現させた時の局在性の確認も含む。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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