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2018 年度 実績報告書

微生物のオリゴ糖を介した環境認識

研究課題

研究課題/領域番号 18H02132
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

松沢 智彦  国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10711971)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード麹菌 / Aspergillus oryzae / キシログルカン / オリゴ糖 / 環境応答
研究実績の概要

麹菌Aspergillus oryzaeのオリゴ糖を介した環境認識機構を明らかにするために、キシログルカンオリゴ糖(ヘミセルロースの一種であるキシログルカンの部分分解物)によって発現が誘導される遺伝子を網羅的に解析した。キシログルカンオリゴ糖(構造を均一にしたキシログルカンオリゴ糖精製物もしくは複数種類のキシログルカンオリゴ糖の混合物)、グルコースやキシロースなどの単糖、もしくは多糖類であるキシログルカン存在下で一定時間培養した麹菌からtotal RNAを抽出し、RNAseqによってトランスクリプトーム解析を行った。また、本トランスクリプトームから得られた情報の信頼性を向上させるために、キシログルカンオリゴ糖によって発現が誘導される一部の遺伝子の発現解析をリアルタイムPCRによって補完した。これらの発現解析から、キシログルカンオリゴ糖によって誘導される遺伝子、キシロースによって誘導される遺伝子、グルコース飢餓によって誘導される遺伝子などの大まかな分類を行った。
また、キシログルカンオリゴ糖依存的に発現が誘導される糖質加水分解酵素の生化学的解析を行い、複数の酵素(イソプリメベロース生成酵素およびβ-ガラクトシダーゼ)の協調的作用によるキシログルカンオリゴ糖の分解機構を発見した。また、キシログルカンオリゴ糖の分解に関与する糖質加水分解酵素(イソプリメベロース生成酵素)の結晶構造解析などを行い、麹菌のキシログルカンオリゴ糖への応答機構の生化学的・酵素学的側面の解析も並行して進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

麹菌Aspergillus oryzaeから高品質なtotal RNAを抽出するための条件検討を行い、オリゴ糖依存的に発現が上昇する遺伝子の網羅的な解析をRNAseqによって行うことができた。ただし、使用した試薬中に含まれる夾雑物に由来すると予想される遺伝子の発現変動なども一部の遺伝子において見られたため、今後は本現象の詳細な解析や当該夾雑物の除去、また、その影響を考慮したトランスクリプトームデータの解釈が必要になってくると予想される。また、上記の理由から、本年度のトランスクリプトーム解析の結果だけでは十分に信頼性の高い網羅的発現解析と断言することができず、今後の研究をミスリーデングしてしまう可能性を有することから、今後、培養条件検討のさらなる検討や遺伝子改変株でのトランスクリプトーム解析などが必要になってくると考えられる。
キシログルカンオリゴ糖依存的に発現が誘導される遺伝子がコードする2つの糖質加水分解酵素(イソプリメベロース生成酵素およびβ-ガラクトシダーゼ)が相互依存的・協調的にキシログルカンオリゴ糖を分解する新しい機構を見出し、論文発表を行うことができた。また、イソプリメベロース生成酵素の結晶構造解析にも成功し、本酵素が巧みにイソプリメベロースユニット(グルコースとキシロースから成る2糖)を認識する分子メカニズムを明らかにすることができた。また、キシログルカンオリゴ糖の生産に資する新規酵素の同定および酵素学的諸性質の解析も行い、論文発表を行った。

今後の研究の推進方策

本年度のトランスクリプトームデータをより活かすために、さらなるトランスクリプトーム解析およびリアルタイムPCRによる発現解析を進める。その際、より詳細な培養条件(誘導時間・オリゴ糖濃度への依存性・単糖や多糖類が共存する条件でのオリゴ糖の転写誘導能など)の検討や、既知転写因子の欠損株などの遺伝子改変麹菌における遺伝子発現解析を行う予定である。
また、麹菌の多糖類への応答機構・分解機構の全体像を明らかにするために、キシログルカンの分解に資する新規酵素の同定と生化学的解析を進め、酵素学的アプローチによってキシログルカン分解機構の全体像を明らかにする。また、これまでの研究によって明らかになったオリゴ糖の生成や分解に関与する糖質加水分解酵素がどのようにオリゴ糖を介した環境認識に寄与しているかを明らかにするために、当該酵素をコードする遺伝子の欠損株を作製し、その表現型の解析を目指す。
本年度のトランスクリプトーム解析から、複数のオリゴ糖依存的に発現が誘導される遺伝子を見いだすことに成功したので、これらの遺伝子の発現制御メカニズムの解明を目指し、当該遺伝子のプロモーター配列の解析やその転写制御に関与する転写因子の探索を行う。プロモーター配列の解析や転写因子の探索はトランスクリプトームデータを用いた情報解析および麹菌もしくは酵母を用いた異種宿主によるin vivo解析(プロモーターのレポーターアッセイなど)を予定している。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Cooperation between β‐galactosidase and an isoprimeverose‐producing oligoxyloglucan hydrolase is key for xyloglucan degradation in Aspergillus oryzae2019

    • 著者名/発表者名
      Matsuzawa Tomohiko、Watanabe Masahiro、Kameda Tomoshi、Kameyama Akihiko、Yaoi Katsuro
    • 雑誌名

      The FEBS Journal

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1111/febs.14848

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Crystal structure and substrate recognition mechanism of Aspergillus oryzae isoprimeverose-producing enzyme2019

    • 著者名/発表者名
      Matsuzawa Tomohiko、Watanabe Masahiro、Nakamichi Yusuke、Fujimoto Zui、Yaoi Katsuro
    • 雑誌名

      Journal of Structural Biology

      巻: 205 ページ: 84~90

    • DOI

      10.1016/j.jsb.2018.11.005

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A novel isoprimeverose‐producing enzyme from Phaeoacremonium minimum is active with low concentrations of xyloglucan oligosaccharides2018

    • 著者名/発表者名
      Matsuzawa Tomohiko、Kameyama Akihiko、Yaoi Katsuro
    • 雑誌名

      FEBS Open Bio

      巻: 9 ページ: 92~100

    • DOI

      10.1002/2211-5463.12549

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 培養法とメタゲノム法によるユニークな新規糖質加水分解酵素の単離と解析2018

    • 著者名/発表者名
      松沢智彦
    • 雑誌名

      応用糖質科学

      巻: 8 ページ: 206~210

    • 査読あり
  • [学会発表] アミノ酸配列だけではわからない糖質加水分解酵素の機能とそのシナジー2018

    • 著者名/発表者名
      松沢智彦、矢追克郎
    • 学会等名
      第18回 糸状菌分子生物学コンファレンス
  • [学会発表] キシログルカンの分解に重要な麹菌由来β-ガラクトシダーゼの解析2018

    • 著者名/発表者名
      松沢智彦、矢追克郎
    • 学会等名
      日本応用糖質科学会平成30年度大会

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公開日: 2019-12-27  

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