研究課題/領域番号 |
18H02135
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柴田 秀樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30314470)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カルシウム / コラーゲン / COPII小胞 / 分泌経路 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
コラーゲンはヒトの乾燥重量の約25%を占める構造蛋白質であり、その前駆体は小胞体で約300 nmの長さのらせん構造を形成した後に、COPII輸送小胞によってゴルジ体に輸送される。通常のCOPII小胞の直径は約60~90 nmであり、それよりも長いコラーゲン前駆体を小胞体から搬出する分子機構の解明が本研究の目的である。特に、研究代表者らが前駆体コラーゲンの小胞体からゴルジ体への効率的な輸送に必要な蛋白質として報告したカルシウムイオン(Ca2+)結合蛋白質ALG-2に着目し、その作用機構の解明を目指す。また、小胞体のCOPII小胞出芽領域のCa2+動態を明らかとすることで、コラーゲン分泌におけるCa2+による制御機構の理解に役立てる。 今年度は、COPII小胞形成に関わる蛋白質群の中でALG-2結合モチーフをもつcTAGE5とシノビオリンに着目しALG-2との結合を検討した。既知のSec31Aと比較するとこれらの蛋白質とALG-2の結合は弱いが、過剰発現させるとALG-2と共局在を示すなど細胞内で作用している可能性が示された。また、発光酵素nano luciferaseとALG-2の組換え融合蛋白質を用いて、ALG-2との結合を高感度かつ定量的に解析する手法を確立し報告した。さらに、遺伝子改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼを用いた近接ライゲーション法により、COPII小胞の出芽領域に局在する蛋白質を探索し、COPIIによる輸送を制御する新規候補蛋白質を同定した。また、COPII小胞の出芽領域にCa2+インジケータ蛋白質を局在化させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体の輸送小胞出芽領域に局在する制御因子の中から、ALG-2結合モチーフ様配列をもつ蛋白質を抽出し、それらとALG-2の結合を比較検討した。予想外に結合強度に差が見られたことからALG-2の結合モチーフの精査の材料となるとともに、ALG-2が小胞体の輸送小胞出芽領域で作用する蛋白質の絞り込みを進めることができた。今後、ALG-2との結合がこれらのタンパク質の機能に及ぼす影響を検討する予定である。 COPII小胞の出芽と形成を担う新規制御蛋白質の探索を目指して、近接依存性標識法の導入を検討した。小胞体の輸送小胞出芽領域への局在が既に知られている膜蛋白質、COPII小胞被覆蛋白質、そしてALG-2などを遺伝子改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼと融合蛋白質として恒常的に発現する複数の細胞株を樹立し、それら融合蛋白質の局在を確認するとともに、小胞体の輸送小胞出芽領域に局在する既知蛋白質が特異的にビオチン標識されるかを検討した。その結果、用いる細胞株や融合する蛋白質、また融合させるペルオキシダーゼをアミノ末端とするかカルボキシル末端とするかなどでも違いがあり、それらの適切な組み合わせを見出し、COPII小胞制御蛋白質を特異的にビオチン標識できる細胞株を樹立できた。そして、これまでに報告のない制御蛋白質候補の同定にも成功した。細胞の様々な培養条件によって、COPII小胞出芽領域に動員される蛋白質の種類や量、あるいは翻訳後修飾の違いなども検討できる細胞株であり、今後の解析へと発展させられる。
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今後の研究の推進方策 |
小胞体のCOPII小胞出芽部位においてALG-2が作用する可能性を見出した候補蛋白質について、前駆体コラーゲンの合成と分泌を促進させた培養条件におけるALG-2との相互作用を検討する。また、その候補蛋白質の細胞内局在と機能におけるALG-2結合領域の重要性を明らかにすることで、ALG-2およびCa2+の前駆体コラーゲン搬出における役割の解明を目指す。この候補蛋白質は小胞体ストレスにも応答することから、小胞体ストレスと前駆体コラーゲン分泌の関連についても検討する。 一方、近接依存性標識法により得られた候補蛋白質については、その細胞内局在を観察し、実際に小胞体のCOPII小胞出芽部位に存在するかを確認する。局在が確認された候補蛋白質を選抜し、その局在を担う蛋白質領域の同定、既知のCOPII制御蛋白質との相互作用の有無を検討し、局在様式を明らかにする。また、その候補蛋白質の過剰発現、およびRNA干渉法を用いた発現抑制、ゲノム編集による遺伝子ノックアウトがコラーゲン前駆体分泌とALG-2およびCOPII被覆構成蛋白質の局在に及ぼす影響を観察する。 これらの検討から得られる知見は、カルシウム応答によるコラーゲン分泌制御ネットワークの全容解明の一助となることが期待される。
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