ヒトの全コラーゲン量の9割に相当するI型コラーゲンは線維性コラーゲンである。新規に合成される線維性コラーゲン分子は、小胞体内腔において長さ約300 nmにおよぶ3本鎖らせん構造を形成する。そして、小胞体からの搬出にはCOPIIが必要であることが示されているが、COPIIが形成する典型的な輸送小胞の直径は60~90 nmであり、それよりも長いコラーゲン分子の輸送の仕組みの詳細は不明である。本研究では、I型コラーゲンの小胞体からの効率的な搬出にカルシウム結合蛋白質ALG-2が必要であることに着目し、その作用機構の解明とコラーゲン輸送に関わるさらなる分子の同定を目指した。 本年度は、遺伝子改変型アスコルビン酸ペルオキシダーゼAPEX2を用いた近接依存性ビオチン標識法によって、COPII被覆構成蛋白質Sec23AおよびSec31Aの近傍蛋白質として同定された蛋白質について、それらのGFP融合蛋白質の局在を確認した。その結果、Sec31Aと同様に小胞体のCOPII小胞出芽領域(ER exit site、ERES)に局在する蛋白質について、そのERES局在を担う領域を同定した。また、この蛋白質がSec23AおよびSec23Bと結合することを見出した。コラーゲンをはじめとする小胞体から搬出される蛋白質の分泌におけるこの蛋白質の役割を解明する目的で、CRISPR-Cas9システムによりノックアウト細胞の作出を試みたが、この蛋白質を発現しない細胞株は得られなかった。そのため、Tet-Onシステムを用いた発現抑制を誘導可能な細胞株を樹立した。今後、この細胞株を用いてI型コラーゲン前駆体などの小胞体からの輸送を追跡する予定である。
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