研究課題/領域番号 |
18H02136
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物 / 概日時計 / 低分子化合物 / 作用機序 / 標的同定 / トランスクリプトーム / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
独自のスクリーニング系で発見していたシロイヌナズナの時計周期を延長する化合物PHA767491の作用機序を解明し、その成果を報告した(Uehara et al., PNAS 2019)。PHA767491は動物のCDK9/CDC7阻害剤として報告されていたが、シロイヌナズナの時計周期を延長する化合物として取得された。この化合物の標的を見出すため、構造活性相関研究を進めたところ、周期延長活性を十分に保持したプローブを作成することに成功した。この分子プローブに結合するタンパク質をシロイヌナズナのタンパク質抽出液から探索し、複数のカゼインキナーゼ1(CK1)タンパク質を得た。シロイヌナズナには少なくとも13のCK1をコードする遺伝子が認められたため、時計周期調節へのCK1ファミリーの重複した機能を想定した。CK1ファミリーをRNA干渉によって一括的に発現抑制すると、時計周期の延長が認められた。またCK1の時計への関わりを解明するために、PHA767491に応答して即座に変化する時計関連遺伝子を同定した。PHA767491によって変化する遺伝子群の発現を制御するPRRファミリーのうちのPRR5とTOC1がCK1の基質となること、を試験管内および生体内のリン酸化状態を解析することで決定した。CK1によるPRR5やTOC1のリン酸化は、分解の契機となっていた。CK1ファミリーは既知の時計関連転写因子であるPRR5とTOC1をリン酸化することで、時計周期を調節することが明らかとなった。合成化学との共同研究により、PHA767491の構造類似化合物のうち、強力なCK1阻害剤を作成した(Saito et al., Plant Direct 2019)。別の長周期化化合物もCK1阻害剤として機能することを見出した(Ono et al., Plant Cell Physiol. 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定したPHA767491の作用機序の解明を報告することができた(Uehara et al., PNAS 2019)と共に、PHA767491のさらなる構造活性相関研究を通して、協力な植物のCK1阻害剤を作成するに至った(Saito et al., Plant Direct 2019)。新たなCK1阻害剤は、PHA767491よりも100倍ほど薄い濃度でも十分に周期延長の効果を持つ。実行濃度は1マイクロモーラーよりも低い。さらに新規CK1阻害剤のプローブ分子による標的探索を行ったところ、このCK1阻害剤はPHA767491よりもCK1への選択性が高まっていた。以上より、当初の計画にはなかった、強力かつ選択性の高まった植物のCK1阻害剤を作成するに至った。また名古屋大トランスフォーマティブ生命分子研究所の管理する独自の化合物ライブラリーから、新たな時計長周期化化合物を発見した(Ono et al., Plant Cell Physiol. 2019)。この化合物の作用機序の解明にむけて、化合物処理後の遺伝子発現プロファイリングを行ったところ、最終的にこの化合物もCK1の阻害剤として機能することを解明した。この2編の論文成果は当初の計画に入っていなかったものではあるが、本研究の最終的な目標へ到達へ向けて非常に大きな成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
CK1ファミリーの時計周期調節の仕組みの中で、PRR5とTOC1のリン酸化を契機とした分解機構が示された(Uehara et al., PNAS 2019, Ono et al., Plant Cell Physiol. 2019)。しかしPRR5とTOC1のCK1によるリン酸化アミノ酸サイトは不明である。今後は、まずリコンビナントタンパク質を用いた試験管内リン酸化反応後のMS-Spec解析によって、PRR5とTOC1のCK1によるリン酸化サイトを同定する。平行して、生体内でのPRR5とTOC1のリン酸化サイトのうち、PHA767491処理の有無によって変化するものをMS-Spec解析によって同定する。試料となるPRR5やTOC1はタンパク質存在量が少ないことが示唆されているため、MS-Specへ供与するサンプルは免疫沈降させたものも用いる。PRR5とTOC1のリン酸化サイトを決定した後には、そのリン酸化サイトを変異させたPRR5やTOC1をシロイヌナズナに発現させ、時計の周期長を中心として表現型を観察する。またPRR5とTOC1のCK1によるリン酸化サイトを認識できる抗体を作成し、CK1リン酸化の日内変動の有無を確認する。環境シグナル(温度や光)によるリン酸化状態も解析し、本研究の最終的な目標「環境変動に適応する時計機構」の解明を目指す。
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