研究課題/領域番号 |
18H02136
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物 / 概日時計 / 低分子化合物 / 作用機序 |
研究実績の概要 |
独自のスクリーニング系で発見していた超長周期化化合物(PAC3)の作用機序の解明を目指した。まず、PAC3の構造活性研究を行い、活性を損なわない形でアガロースビーズに結合させた。この化合物ビーズに結合するタンパク質をシロイヌナズナの細胞抽出液から探索した。その際、化合物ビーズと標的タンパク質の結合を阻害するために、PAC3を含む実験サンプルも用意した。化合物ビーズと結合するが、その結合がPAC3によって阻害されるというタンパク質がPAC3の標的として考えられる。以上の仮定のもと、プロテオミクス解析の実施したところ、あるタンパク質キナーゼが標的候補として得られた。そこでこのタンパク質キナーゼをコードする遺伝子を破壊した株を複数アリル作成し、それらの株の概日リズム周期を発光レポーター検出系を用いて解析したところ、これらの株は概日リズムが長周期化することが分かった。しかし、これら変異株における長周期化の程度は、化合物処理による長周期化よりも弱かった。そこで候補遺伝子とよく似た配列の遺伝子が、冗長的に機能する可能性が考えられた。これらの両遺伝子の二重機能欠損株は致死となったが、二重ノックダウン株の作成には成功し、この株はリズムが超長周期化すること、その超長周期化は化合物PAC3による効果と似ていることを突き止めた。またこの遺伝子の翻訳産物であるキナーゼの活性を試験管内で解析する実験系を確立し、PAC3がこのキナーゼの阻害剤であることを明らかにした。さらにPAC3とキナーゼの結合モデルを、in silico解析と生化学実験によって得ることができた。また、PAC3を植物に処理することで、このキナーゼの基質のリン酸化レベルが低下することを見出した。このキナーゼはこれまで時計に関与していることが報告されていないものであった。このように独自の化合物の作用機序を探る研究によって、新たな時計関連キナーゼを見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の成果に引き続き、別の新たな時計長周期化化合物(PAC3)の作用機序の解明を達成した。この化合物は、これまで時計に関わると報告のなかったタンパク質キナーゼのリン酸化阻害剤であったため、新たな時計関連タンパク質の発見へと繋がった。またPAC3を植物に処理することで、このキナーゼの基質のリン酸化状態を低減するさせることも見出した。このように、独自の化合物の作用機序を探る研究によって、新たな時計関連キナーゼを見出すことができたことは、植物時計のメカニズムの研究においてブレークスルーといえる。 また、このキナーゼをコードする遺伝子は2つ存在するが、これらの完全な二重ノックアウトは致死であった。したがって、キナーゼは生育に必要な働きを持ち、このような必須遺伝子を変異体スクリーニングを起点とした研究で見出すことは困難である。この研究は、化合物スクリーニングを起点とした研究の新たな技術的な有利性「必須性を回避して関連遺伝子を見出す」ということを明示した例となった。 さらに、新たな分子プローブ(PAC3アガロースビーズ)およびプロテオミクスを使ったアプローチにより、化合物の標的タンパク質を同定することを達成した。このことは、我々の研究方法(アフィニティープロテオミクス)がより広範囲な構造をもつ化合物へも展開できる一般的方法となることを示唆しており、今後植物科学分野において多様な生物活性分子の作用機序を探る研究への技術的指針となると自負している。
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今後の研究の推進方策 |
PAC3の作用機序が明らかとなったことをうけ、PAC3の構造類似化合物(アナログ)の解析を進める。試験的な解析では、PAC3よりも強力な活性をもつ化合物を得ているが、この化合物は標的タンパク質(キナーゼ)に結合する様式は、従来の結合モデルからは推論できない。そこで、化合物の標的タンパク質への結合の分子モデルを得るとともに、この化合物の活性を様々な生物活性テストから評価していく。化合物とタンパク質の新たな結合モデルが得られることで、このタンパク質の活性と時計周期との関連性がさらに理解されるであろう。 標的タンパク質の同定が未だ困難な2つの時計周期変調化合物については、化合物プローブを使ったアフィニティープロテオミクスと化合物処理後の遺伝子発現変化の俯瞰を組み合わせた方法の研究を進める。化合物処理で変化した遺伝子を同定したのちに、これら遺伝子の発現に関わる転写因子やその修飾酵素などが、化合物の作用経路で働くと考えられる。このような状況を念頭におきながら、遺伝子の発現に関わる転写因子の相互作用因子を同定する。この同定方法に関して、すでに新たな方法を考案しており、この方法を使うことで効率的に進めたい。また近接タンパク質ラベリング法(tarboID)もこの目的のために汎用される方法であるため、この方法も取り入れて研究を進める。 以上のように時計周期を変調させる化合物の働きや作用経路の解明によって、植物の時計に関わる新たな生体分子やその機能について理解を深めていく。
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