研究実績の概要 |
モデル高等植物シロイヌナズナの概日時計中心振動体は明け方に発現のピークをもつCCA1/LHY、昼に発現のピークをもつPRR9/PRR7/PRR5、夕暮れに発現のピークをもつEvening Complex (EC)の3つのクラスの転写抑制因子から構成されており、互いに負のフードバック回路を形成して振動している。CCA1/LHY遺伝子の転写は暗期後半に誘導され、PRRsが発現する明期に抑制される。PRR7のC末端にHAタグを融合するコンストラクトをPRR7プロモーター支配下で発現する形質転換体(PRR7:PRR7-HA)を用いたクロマチン免疫沈降実験により、PRR7はin vivoでCCA1/LHYの転写開始点からその上流約300bpまでの領域に時間特異的に結合していることを示した。次に、CCA1/LHY遺伝子プロモーター近傍のヒストンH3のアセチル化、メチル化 をK4, K9, K14, K18, K23, K27, K36, K56を対象にそれぞれの特異抗体を用いたChIP assayにより広範に解析したところ、野生株Col-0において転写誘導期に相当する暗期後半にはアセチル化レベルが高いが、転写が抑制されている明期には脱アセチル化されており、制御領域のクロマチン構造が日周レベルで変動していることが示唆された。一日を通じてCCA1/LHYの転写が脱抑制されているprr9 prr7 prr5三重変異体においてはヒストンH3K9のアセチル化が構成的に高いレベルを維持していた。prr9 prr7 prr5三重変異体に導入したPRR7:PRR7-HAは、標的プロモーター近傍の周期的な脱アセチル化活性の誘導の回復が観察されたが、RLDを欠損したPRR7-HAを導入した形質転換体(PRR7:PRR7deltaRLD-HA)においては回復できなかった。このことから、PRR7はRLD依存的なprotein-protein相互作用を介してターゲット遺伝子のヒストン修飾を制御していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
微生物、植物の環境応答を支えるHis-Aspリン酸リレー情報伝達系を構成するレスポンスレギュレーター(RR)は、N末端に存在するレシーバー ドメイン(RD)がセンサーキナーゼに依存したリン酸化修飾を受けることでC末端に存在するエフェクタードメイン(ED)の活性が調節される制御因子として機能している。多くのRDはポテンシャルな二量体形成活性を有しているが、RR分子においては、非リン酸化状態のRDはRD同士の二分子間の相互作用よりもC末端のEDとの相互作用の力の方が強いため、分子間で相互作用することなく単量体として存在している。RDの興味深い性質として、リン酸化状態のRDは非リン酸化状態のRDよりも二分子間の相互作用力が強くなることが知られており、多くのRRはリン酸化に依存して単量体から二量体へと構 造を変化させ、その結果、通常DNA結合ドメインとして機能するEDのDNA結合活性が上昇することが示されている。 植物時計因子の一つである疑似レスポンスレギュレーター(PRR)もまた、N末端にレシーバー様のドメインを保持する転写制御因子であり、PR R9, PRR7, PRR5はともにCCA1およびLHYと名付けられた明け方に誘導される時計遺伝子の転写を抑制する働きを持っている。PRRファミリーに保存されているレシーバー様ドメイン(RLD)はリン酸転移を受けるAsp残基がGlu残基に置換されているためリン酸化修飾を受けることができず、本来のRDとしての機能を失っていると考えられる。PRR7のRLDはターゲットプロモーター上流へのDNA結合能には影響を与えないが、ターゲットプロモーター近傍のヒストン脱アセチル化に関与していることが分かった。さらに、RLDはPRR7における唯一の二量体形成ドメインとして機能していることが明らかになり、レスポンスレギュレーターと中心振動体の違いを規定するRD, RLDの生化学的性質の違いを見いだすことができた。
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