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2019 年度 実績報告書

生体膜スフィンゴ脂質の代謝破綻から細胞を守る新規救済機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18H02139
研究機関九州大学

研究代表者

谷 元洋  九州大学, 理学研究院, 准教授 (20452740)

研究分担者 石橋 洋平  九州大学, 農学研究院, 助教 (90572868)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードスフィンゴ脂質 / 複合スフィンゴ脂質 / セラミド / 出芽酵母 / 救済機構 / スフィンゴイド塩基 / ストレス応答 / シグナル伝達系
研究実績の概要

昨年度に引き続き、スフィンゴ脂質の代謝破綻による細胞機能異常発現とそれに対する救済機構に関して、以下の成果を得た。
(1) 複合スフィンゴ脂質破綻応答シグナル (HOG経路)の最終標的因子の同定
前年度に引き続き、複合スフィンゴ脂質減少による生育阻害を救済するHOG経路の最終標的因子のスクリーニングをおこなった。その結果、救済能をもつ遺伝子を最終的に五つ同定した。この中で、ミトコンドリアに局在することが示唆されている二つの機能未知遺伝子は、協調的にミトコンドリア由来の活性酸素種の増大を抑制することによって救済に寄与することを見出した。
(2) これまでに、複合スフィンゴ脂質IPCが酵母内で過剰蓄積すると低pH条件下 (pH 2.5-3.5)での生育が著しく低下することを見出している。この低pH高感受性を抑制できる遺伝子変異をスクリーニングした結果、エルゴステロールを形質膜から小胞体へと輸送するLamファミリータンパク質をコードする遺伝子を新たに同定した。解析の結果、IPC過剰蓄積による低pH高感受性は、形質膜におけるエルゴステロール量の増大によって救済されることがわかった。また酵母は、低pH条件に晒されるとセリンパルミトイル転移酵素、IPC合成酵素の活性低下を介して細胞内IPC量を速やかに低下させることで、環境適応していることも明らかにした。
(3) 前年度は、複合スフィンゴ脂質の合成中間産物であるジヒドロスフィンゴシン (DHS)が酵母で過剰蓄積すると強い細胞毒性を発揮すること見出した。本年度は、この細胞毒性発現のメカニズムを詳細に調べた。アポトーシス関連遺伝子の欠損、アネキシンV-PI染色の実験結果より、DHSはネクローシス様の細胞死を引き起こすことが示された。さらにDHS過剰蓄積による細胞死に対して、抑制的にはたらく遺伝子を同定するためのスクリーニング系を新たに構築した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

HOG経路を介した複合スフィンゴ脂質代謝破綻に対する救済機構については、最終標的因子を絞り込み、その詳細な機能解析が順調に進行している。また、前年度に引き続き行なったDHSの細胞毒性に関する研究は、2019年度にFEBS Journalに掲載された (in press)。さらに、IPC過剰蓄積による低pH高感受性とエルゴステロールの連関性に関する論文を投稿中である。以上のことから、本研究課題の進捗状況は概ね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

HOG経路の最終標的に関しては、活性酸素種抑制の他にグルコース代謝に影響を与える遺伝子が新たに同定されたため、解糖系に着目した研究をさらに進行させる必要がある。また一方で、複合スフィンゴ脂質代謝破綻下でprotein kinase Aを介したシグナル伝達系がHOG経路を調節していることを新たに見出したため、今後は両シグナリング経路のクロストークについて詳細に解析を進めていく予定である。IPC過剰蓄積による低pH高感受性をレスキューする遺伝子変異については、Lamファミリー以外にも細胞内Ca2+ホメオスタシスやスフィンゴイド塩基 1-リン酸代謝に関与する遺伝子も同定されているため、これらの詳細な解析を進めていく。ジヒドロスフィンゴシン過剰蓄積による細胞毒性を回避するメカニズムについては、関連遺伝子を同定するためのスクリーニング系が確立できたので、今後は救済遺伝子の同定を試みていく。

  • 研究成果

    (23件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (20件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Mitochondrial reactive oxygen species-mediated cytotoxicity of intracellularly accumulated dihydrosphingosine in the yeast Saccharomyces cerevisiae.2020

    • 著者名/発表者名
      Arita N, Sakamoto R, Tani M
    • 雑誌名

      FEBS J

      巻: - ページ: -

    • DOI

      10.1111/febs.15211

    • 査読あり
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質生合成破綻下における酵母の生存戦略2020

    • 著者名/発表者名
      坂本 理沙、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2020年度大会
  • [学会発表] 出芽酵母の複合スフィンゴ脂質生合成破綻下におけるcAMP/PKAシグナリング経路とHOG経路の役割2020

    • 著者名/発表者名
      瓜田 敦哉、柳瀬 由起美、石橋 洋平、谷 元洋
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2020年度大会
  • [学会発表] 出芽酵母の複合スフィンゴ脂質構造多様性破綻ライブラリーの作製とストレス耐性能評価2020

    • 著者名/発表者名
      古賀 綾乃、高山 千廣、谷 元洋
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2020年度大会
  • [学会発表] 出芽酵母におけるスフィンゴイド塩基の生理活性の再評価2019

    • 著者名/発表者名
      有田 頌彬、坂本 理沙、谷 元洋
    • 学会等名
      第9回酵母膜交流会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質代謝破綻下におけるHOG経路を介した酵母の生存戦略2019

    • 著者名/発表者名
      坂本 理沙、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      第9回酵母膜交流会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質代謝破綻下におけるProtein kinase Aを介したHOG経路制御機構2019

    • 著者名/発表者名
      瓜田 敦哉、柳瀬 由起美、谷 元洋
    • 学会等名
      第9回酵母膜交流会
  • [学会発表] スフィンゴイド塩基過剰蓄積による出芽酵母の細胞死誘導機構の解析2019

    • 著者名/発表者名
      有田 頌彬、坂本 理沙、谷 元洋
    • 学会等名
      第37回 YEAST WORKSHOP
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質代謝破綻の救済機構として機能するHOG経路の最終標的因子の同定2019

    • 著者名/発表者名
      坂本 理沙、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      第37回 YEAST WORKSHOP
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質代謝破綻下におけるHOG経路の制御機構の解析2019

    • 著者名/発表者名
      瓜田 敦哉、柳瀬 由起美、谷 元洋
    • 学会等名
      第37回 YEAST WORKSHOP
  • [学会発表] フェロモン応答経路のダウンレギュレーションによるスフィンゴ脂質合成酵素阻害剤からの救済2019

    • 著者名/発表者名
      柳瀬 由起美、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      第37回 YEAST WORKSHOP
  • [学会発表] 出芽酵母の低pHストレス耐性能と複合スフィンゴ脂質の連関性2019

    • 著者名/発表者名
      大津 美紀子、谷 元洋
    • 学会等名
      第92回 日本生化学会大会
  • [学会発表] ミトコンドリアを介したジヒドロスフィンゴシンによる酵母の細胞死2019

    • 著者名/発表者名
      有田 頌彬、坂本 理沙、谷 元洋
    • 学会等名
      第92回 日本生化学会大会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質生合成破綻による生育低下を補完する酵母HOG経路の救済メカニズム2019

    • 著者名/発表者名
      坂本 理沙、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      第92回 日本生化学会大会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質IPCの代謝調節による低pHストレス適応2019

    • 著者名/発表者名
      大津 美紀子、谷 元洋
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会
  • [学会発表] ジヒドロスフィンゴシンはミトコンドリア活性酸素種の増大を介して細胞死を引き起こす2019

    • 著者名/発表者名
      有田 頌彬、坂本 理沙、谷 元洋
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質代謝破綻下で細胞救済に寄与する因子の解析2019

    • 著者名/発表者名
      坂本 理沙、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質生合成破綻下におけるRas/cAMPとHOG経路のクロストーク2019

    • 著者名/発表者名
      瓜田 敦哉、柳瀬 由起美、谷 元洋
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会
  • [学会発表] フェロモン応答経路の破綻は、複合スフィンゴ脂質合成阻害剤aureobasidin Aに対する抵抗性を付与する2019

    • 著者名/発表者名
      柳瀬 由起美、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第52回研究報告会
  • [学会発表] 出芽酵母の複合スフィンゴ脂質生合成破綻下において機能するRas/cAMPシグナル伝達経路の解析2019

    • 著者名/発表者名
      瓜田 敦哉、柳瀬 由起美、谷 元洋
    • 学会等名
      2019年度 日本生化学会九州支部例会
  • [学会発表] 複合スフィンゴ脂質合成酵素阻害剤Aureobasidin Aに対する抵抗性を酵母に付与する遺伝子変異の解析2019

    • 著者名/発表者名
      柳瀬 由起美、瓜田 敦哉、谷 元洋
    • 学会等名
      2019年度 日本生化学会九州支部例会
  • [図書] セラミド研究の新展開 -基礎から応用へ-2019

    • 著者名/発表者名
      谷 元洋、石橋 洋平、渡辺 昂、伊東 信
    • 総ページ数
      8
    • 出版者
      食品化学新聞社
  • [備考]

    • URL

      https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K003745/research.html

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公開日: 2021-01-27  

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