研究課題/領域番号 |
18H02141
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鈴木 義人 茨城大学, 農学部, 教授 (90222067)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゴール / 昆虫 / オーキシン / サイトカイニン / 植物ホルモン / 生合成 / ハバチ |
研究実績の概要 |
本研究では,ゴール形成昆虫が植物ホルモン(オーキシンおよびサイトカイニン)の生合成能を進化的に獲得したことがゴール形成能の獲得に繋がったことを証明するために,量ホルモンの生合成機構を明らかにしようとしている.オーキシン(indole-3-acetic acid, IAA)についてはTrp→IAOx→IAAld→IAAという経路を提唱しており,既にIAAld→IAAの変換を担うaldehyde oxidase(BmIAO1)をカイコから明らかにしていたが,本酵素がIAOx→IAAの変換活性も有することを明らかにした.また,実験条件によっては本酵素存在下では補因子であるFADが非酵素的にTrp→IAAldの変換を引き起こすことも示した.ゴール形成ハバチのRNA-seq解析に基づく配列情報からは,相同なタンパク質が1つ見出され,組換え酵素の発現を行っているが,現時点で微弱な活性しか得られていない.一方,Trp→IAOxおよびTrp→IAAldの変換に関与する可能性のある酵素として,それぞれflavin-containing monooxygenase(FMO)およびaromatic aldehyde synthase(AAS)をゴール形成ハバチのRNA-seq解析から得られた配列情報およびカイコのデータベース情報から選抜し,組換え酵素を作成したところ,いずれもハバチの1クローンずつのみに活性が確認された(PonFMO1,PonAAS2)。サイトカイニンについてはハバチ上にある1つのisopentenyl transferaseおよび数種のP450の機能を酵母発現系にて活性の検討を行ったが,いずれもネガティブな結果であった.今年度新たにデータ取得数を大幅に増やしたRNA-seq解析を行ったことによって,候補となる多数のP450の配列が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りRNA-seq解析に基づく遺伝子配列情報が整備され,今後の生合成酵素の特定に重要な基盤整備が出来た.オーキシン生合成については,微生物のみで知られていたFMOがTrp→IAOxの変換活性を持つこと,またAASがTrp→IAAld活性を持つことが示され,TrpからIAAへ至る一連の変換経路を担う候補となる酵素遺伝子が明らかとなった.今後,これらの酵素に対する抗体の調整等を通して,これらの酵素がハバチにおけるIAA合成において担う役割を明らかにするための重要な手がかりが得られた.
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今後の研究の推進方策 |
オーキシン生合成については,組換えタンパク質における酵素活性が確認されたゴール形成ハバチのflavin-containing monooxygenase(FMO,Trp→IAOxを担う)およびaromatic aldehyde synthase(AAS,Trp→IAAldを担う)が,ハバチ幼虫から調製された酵素液の示す活性をどこまで説明しうるかを明らかにすることを目的に,それぞれの抗体を作成し,抗体による阻害実験等を行う.具体的には,ハバチ酵素液にこれらの酵素が含まれるかをウェスタン解析により明らかにした上で,免疫沈降,あるいはアフィニティークロマトグラフィーによって当該酵素活性を阻害した時の,酵素活性の低下率を測定する. 一方,サイトカイニンについては,今年度検討した数種のP450には,酵母発現系においてサイトカイニン側鎖の水酸化活性が認められなかったが,今年度行ったRNA-seq解析情報から,さらに候補となるP450酵素遺伝子が多数見出されたため,これらの活性確認を徹底する.また,サイトカイン生合成の鍵酵素であるisopentenyltransferase(IPT)は唯一見出されたtRNA型と思われる酵素にAMP等の低分子を基質とする活性が認められなかったが,新たに行ったRNA-seq解析データにおいても,同一のクローンしか見出されたかったため,tRNA経由のサイトカイニンの高生産の可能性や,酵母発現系では確認していない水酸化された基質を側鎖に転移する可能性等について検討する.
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