研究課題/領域番号 |
18H02143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片岡 宏誌 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (60202008)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 昆虫 / 胚発生 / エクジステロイド / リン酸抱合体 |
研究実績の概要 |
1.胚発生初期における形態変化と20Eの変動の解析:産卵直後から産卵96時間後までのカイコ非休眠卵を6時間毎にサンプリングし、チオニン染色による胚形態の観察、およびLC-MS/MSによるエクジステロイド定量を行った。活性型エクジステロイドである遊離型20-ヒドロキシエクジソン(20E)は産卵直後、産卵42-54時間後、産卵78-96時間後の3つの時期で高い値を示した。 2.卵抽出物を用いたエクジステロイド生合成酵素活性化時期の特定:産卵後24時間ごとにカイコ非休眠卵をサンプリングし、卵破砕液をエクジステロイド中間体(ケトジオール又はエクジソン)存在下でインキュベートして生成物(ケトトリオール又は20E)を定量することで、生合成酵素(phantom又はshade)の活性時期を特定した。その結果、いずれも産卵24時間後には酵素活性が認められず、48から72時間後に酵素活性が上昇した。 3.RNA干渉法を用いたエクジステロイド脱リン酸化酵素(EPPase)ノックダウンによる胚発生への影響:エクジステロイドリン酸化酵素(EcK)およびEPPaseノックアウト系統の作出を試みたが、系統を樹立することができなかった。そこで、二本鎖RNAを産卵直後の非休眠卵に注入することによりEPPaseをノックダウンしたところ、卵中の20E含有量が減少した。また、EPPaseのノックダウンによって産卵30時間前後で胚発生の遅延が見られた。すなわち、EPPaseは産卵30時間までに活性化し、20Eを介して、へら形期から上唇突起発生期の胚発生を促進すると考えられた。 4.貯蔵型エクジステロイド(リン酸抱合体)の定量系構築:昨年度確立した抽出法を用いて得られたリン酸抱合体を陰イオン交換クロマトグラフィーならびにHPLCで精製した。現在、この精製品を用いてLC-MS/MSの測定条件を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、エクジステロイドリン酸化に関わる酵素のノックアウトを計画していた。しかしながら遺伝子のノックアウトには成功したが、ホモ変異が胚性致死となり系統の樹立ができなかった。そこで、二本鎖RNAの卵注入によるノックダウンを行い、EPPaseが胚期のいつの時期に重要であるか推定した。 一方、予定していた胚発生期における胚形態の変化、エクジステロイドの変動解析が完了し、マスタータイムテーブルを作成できた。このデータは今後の昆虫胚発生機構を解析する上で中心的な役割を果たすと確信している。 以上のように、一部予定通りの計画が進まなかったが、概ね順調な成果をあげることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度作成した胚発生期のマスタータイムテーブルに沿って、エクジステロイド生合成酵素類およびEPPaseなどの遺伝子発現変動をリアルタイムPCRによって測定し、20E濃度と酵素遺伝子類の発現量の変動との関係を明らかにする。また、胚発生に沿ったリン酸抱合体の変動を解析し、貯蔵型エクジステロイド(リン酸抱合体)から20Eを合成する経路とコレステロールから20Eを生合成する経路が胚発生のどの時期に重要であるか、明確にして論文化を目指す。そのためにも、LC-MS/MSを用いた貯蔵型エクジステロイド(リン酸抱合体)の定量系の構築に注力する。 また、エクジステロイドリン酸化に関わる酵素(EcKおよびEPPase)のノックアウト系統の作出については再度挑戦する。
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