研究実績の概要 |
赤小豆の種皮色素の研究に関しては、種皮に含まれる紫色色素の単離と完全な構造解明を達成した。すでに、その存在を明らかにしていた2種類の紫色色素(カテキノピラノシアニジンAおよびB)を、酢酸エチル抽出、溶媒分画とカラムクロマトグラフィーによる単離法を検討し、20 Kgの赤小豆から色素A, Bをそれぞれ20 mgと、2 mg程度得る方法を確立した。高分解能質量分析により、いずれも分子式がC30H20O11と決定した。しかし、カテキンおよびシアニジンの構造は判明したものの、NMRだけではそれらの結合様式を決定できなかった。そこで、紫色色素を光分解して得られる分解物の構造解明を行った。分解物はC29H20O12と決定でき、カテキン部分は残り、シアニジン部分が変化していた。最終的に、誘導体化を含めた化学的手法と、色素のコンフォメーション解析、13C-NMRの化学シフト予測、円二色性の量子化学計算などを組み合わせ構造を決定した。カテキンの6,7位とシアニジンの4,5が縮環した新規構造の色素であった。AとBの違いは、カテキン部分の2、3位の立体配置の違いによる。これら紫色色素は糖を持たないことからアントシアニンでは無い。水にはほとんど溶けず、強酸性から弱酸性域で紫色を示し、pHによる色変化が無い。 一方、黒大豆種皮色素の研究に関しては、未熟黒大豆を莢から取り出して空気暴露することにより黒化する現象が普遍的であることを、三種類の品種で試験して明らかにした。さらに、この過程における、アントシアニンのシアニジン3-グルコシドと色素前駆体と推測される, 3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドの分析を実施し、アントシアニンの増加と前駆体の減少が相関することを見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
赤小豆種皮色素の研究に関しては、黒大豆の場合と同様に、未熟な状態から登熟過程における色素の変化を分析する必要があると考える。さらに、予備的な研究から、黒大豆と同様に、未熟な状態で莢から取り出して空気に暴露すると、赤色へと急速に変化する現象がわかっているので、この過程における種皮成分の分析と変化を解析する。さらに、カテキノピラノシアニジンA、Bのカテキン部2,3位の立体配置について、実験的方法を用いて決定し、円二色性の量子化学計算による決定が正当であることの証明を行う。 黒大豆種皮色素の研究に関しては、色素前駆体と推測される、3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドが不安定であるため市販されていない。まず、この簡便な合成法を開拓する。これを用いて、未熟な黒大豆種皮の黒化におけるシアニジン3-グルコシドと3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドの量的変化の定量分析を実施する。定量分析に関しては、合田らの方法を参考にして、まず、定量NMR法を用いて、シアニジン3-グルコシド、および3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドの絶対純度を測定する。次に、これを根拠にHPLC法による分析法の確立を目指す。 一方、従来のシアニジン3-グルコシドの生合成経路における中間体と目されるにも関わらず、やはり市販されていないシスロイコシアニジン、およびその替わりに生合成研究で用いられるトランスロイコシアニジンの合成を行う。また黒大豆種皮よりアントシアニジン合成酵素遺伝子をクローニングし、その発現解析を実施する。
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