研究課題/領域番号 |
18H02146
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 久美 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90210690)
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研究分担者 |
尾山 公一 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 技師 (80402460)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Vigna angularis / Glycine max / Catehinopyranocyanidin / Photo-degraded compd. / cyanidin 3-glucoside / 2-flavenol / cis-leucocyanidin / anthocyanidin synthase |
研究実績の概要 |
赤小豆の未熟種皮が着色する過程における成分変化を分析するため、未熟な赤小豆を莢から取り出して明条件下空気に暴露して種皮を抽出し、HPLCで分析した。未熟時にはアントシアニンが検出され、20時間後の赤色に変化した種皮には、カテキノピラノシアニジンA、Bが検出されたことから、小豆種皮の紫色色素に関しても、未熟時に色素前駆体が含まれるのではないかと考えられる。さらに、カテキノピラノシアニジンA光分解物を調製しフェノール基を全てメチル化後、カテキン部3位のヒドロキシ基を(R)-および(S)-MTPAエステル化した。それぞれの1H NMRを測定し、3位の廻りのプロトンシグナルを精密に帰属した。新モッシャー法を用いて3位ヒドロキシ基の絶対立体配置をS配置と決定した。CDと計算化学による結果と一致した。 一方、黒大豆種皮色素の研究に関しては、色素前駆体と推測される、3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドをシアニジン3-グルコシドをシアノ水素化ホウ素ナトリウムで還元する簡便な合成法を開拓した。さらに、ジヒドロケルセチンから生合成前駆体とされているシスロイコシアニジン、およびそのトランス体の合成を行った。 再精製したシアニジン3-グルコシド、ならびに3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドを定量NMR法で絶対純度を決定した。この値を元にHPLCにより、未熟な黒大豆種皮の黒化におけるシアニジン3-グルコシドと3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドの量的変化の定量分析を実施した。前駆体の減少とアントシアニンの増加は相関することがわかった。 さらに、既報の大豆のアントシアニジン合成酵素遺伝子の配列を参考にして、黒大豆種皮より遺伝子をクローニングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カテキノピラノシアニジンAの光分解物を用いて、新モッシャー法により3位の絶対立体配置を実験的に証明した。これにより、昨年度決定した円二色性と計算化学を組み合わせた絶対配置が正しいことが実証され、今後、天然物の絶対配置の決定にこの方法が普遍的に適用可能であることを提示することができた。さらに、赤小豆種皮色素に関しても、黒大豆と同様に未熟な種子を莢から出して明所で空気暴露すると赤くなり、種皮の主要色素であるカテキノピラノシアニジン類が生成することを初めて明らかにした。これにより、カテキノピラノシアニジン類の前駆体が未熟な種皮にすでに蓄積していることを強く示唆する証拠が得られ、今後、生合成研究における重要な知見となった。 一方、黒大豆種皮色素の研究に関しては、アントシアニン前駆体と推測される分子である、3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドの合成法を確立して、種皮の含有量の定量分析を可能としたことは、生合成研究における重要な進展である。 さらに、標準品の無い天然物の定量に定量NMR法を適用して、種皮の黒化の過程における成分分析を行ったことにより、3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシドがシアニジン3-グルコシドの前駆体であることが強く示唆される結果を得た。 これに加え、従来シアニジン3-グルコシドの生合成中間体と考えられてきたにも関わらず、これもまた不安定で市販されていなかったシスロイコシアニジンを合成できるようになり、生合成研究の進展が望める。
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今後の研究の推進方策 |
赤小豆種皮色素の研究に関しては、未熟種皮に色素前駆体が存在することが強く示唆された。酸化反応によりカテキノピラノシアニジン類になることが考えられるので、色素の還元体の候補としてカテキノピラノシアニジン類のシアニジン部分が還元された形のカテキン二量体を各種分子設計し、これらの化学合成を試みる。さらに、未熟種皮抽出物をLC/MSにより分析して、候補の分子量を示すピークの探索を行い、色素生合成の機構の解明をはかる。同時に、未熟種皮の段階で検出されるアントシアニン類の単離と構造解明、ならびに、これらが登熟すると減少する仕組みの解明を試みる。 また、登熟種皮抽出物には、カテキノピラノシアニジン類と似た吸収スペクトルを持つ色素ピークがいくつか検出されている。これらの単離と構造決定を行う。 黒大豆種皮色素の研究に関しては、色素前駆体と目される3,5,7,3’,4’-ペンタヒドロキシフラブ-2-エン-3-オール 3-O-グルコシド、および、これまでアントシアニン生合成経路におけるアントシアニジン合成酵素の基質と考えられてきたシスロイコシアニジンの合成を達成できたので、これらを用いて、未熟黒大豆種皮から粗酵素液を調製して、シアニジン3-グルコシドへの変換反応を行う。 さらに、アントシアニジン合成酵素の遺伝子をクローニングできたので、これを用いてアントシアニジン合成酵素タンパク質を発現させる。得られた酵素タンパク質を用いて、合成した基質の変換反応を行い、生合成経路の解明を目指す。
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