研究課題/領域番号 |
18H02158
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古屋 茂樹 九州大学, 農学研究院, 教授 (00222274)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質 / 発達期 / モノアミン / 栄養制限 |
研究実績の概要 |
今年度初頭にキャンパス移転後の新動物実験施設において得られた脳組織試料と、保存していた移転前に採取した試料と結果の再現性比較を行った。その結果、一部の分子発現結果が一致しない事例を見いだした。その原因を探求し、以下の事項が推定された。①移転前飼育室と温度及び湿度の管理方法が異なり、新施設では建物全体での湿度の制御を行っていないため、飼育室単位で温度を調整し、湿度は除湿機で管理している。②移転前は給餌飼料(AIN93Gおよび同飼料準拠タンパク質制限食)を自作していたが、新施設では未滅菌自作飼料は使用できないため、両飼料を外注で作製しガンマ線滅菌処理を行った。これらの飼育条件の違いは、栄養介入実験によって得られる各種表現型に少なからぬ影響を与えていると推定された。そのため、今年度は当初計画を変更し、新施設での発達期タンパク質栄養不全モデルについて、行動試験及び分子発現変化について移転前キャンパスで得られた結果と詳細な比較を行うこととした。その遂行により、以下の結果が得られた。 統合失調症の行動エンドフェノタイプであるプレパルス抑制試験(PPI)障害では、雌性制限群特異的に障害されていた。すなわちPPIは移転前の結果が再現された。前頭前野での分子発現については、NRGNタンパク質が雌性制限群で有意に減少していたが、雄性制限群においても雌性より軽度であるが対照群より有意に減少していた。インスリン/IGFシグナル伝達系を構成する分子Xについては、活性指標となるリン酸化レベルの雌性制限特異的な減少を認め、移転前の結果を再現していた。すなわち行動試験及び分子発現変化のいずれにおいても、概ね高い再現性が認められた。ただしNRGNについては雌性だけでなく雄性制限群においても発現低下が認められたことから、NRGNのみの量的低下がPPI障害の決定因子ではなく、他の雌性制限群特異的な変化も寄与しているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」でも示したように、キャンパス移転によって新規動物実験施設における実験動物(マウス)の飼育条件が移転前と変わったため、本課題の主要な結果に影響する可能性が浮上した。一般に実験動物の飼育環境が変わることで実験結果の再現性が得られなくなった事例が数多く在ることから、この点を不確実なままに本研究課題を先に進めることは不可能であった。そのため2019年度は、キャンパス移転前に得られた結果の再現性について、詳細かつ徹底的な検討を行い、そこに研究資源を全面的に投入せざるを得なかった。 結果として行動試験ならびに分子発現変化について、概ね再現性が得られたが、当初今年度計画していた項目については実施が遅れてしまった。また、再現性確認の結果を踏まえて、今後の研究計画を部分的に修正する必要が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までの成果を踏まえ、2020年度は以下の項目を実施する予定である。 1)発達期低タンパク質栄養状態による雌性制限群特異的なPPI障害に関わる分子発現変化の同定と、その変化に係る上流機序の解明。特にインスリン/IGFシグナル伝達経路の変化と、転写因子Yの活性低下に係る分子機序の解明を目指す。 2)1)に関連して、発達期低タンパク質栄養による脳内miRNAの変化について、網羅的発現解析を行い、それらの変化とこれまでに見いだしている分子発現変化との対応付けを試みる。 3)雌雄の制限群脳内では異なる分子発現変化が生じているが、それが及ぼす行動レベルへの影響を明らかにするためにPPI以外の行動試験を行ない評価する。 4)1)ー3)の進捗を踏まえて、代謝物または遺伝子発現に係る網羅的な発現解析を実施し、行動異常に係る責任分子の同定と発症機序の解明を試みる。
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