これまでの研究から研究代表者らは、デザイナー受容体(人工薬剤にのみ応答するGタンパク質共役型受容体)を用い視床下部の摂食亢進神経(アグーチ関連ペプチド産生神経、AgRP神経)を人工的に活性化させると味覚嗜好性が通常から変化(甘味嗜好性が高まり、苦味感受性が低下)することを見出している。本研究では、この成果を起点にしてAgRP神経が脳内のどの部位に作用することで、味覚や食嗜好に影響を与えるのかを探索した。 AgRP神経は脳内の複数の部位とネットワークを構成し、様々な機能を調節する。そこで、光応答性イオンチャネル(チャネルロドプシン)をコードする組換えアデノ随伴ウイルスを遺伝子組換えマウス(AgRP-ires-Creマウス)の視床下部に導入した。このマウスにおいて、AgRP神経の各投射先に光ファイバーを挿入して光刺激を行うことで、一部経路のみを選択的に活性化した。これを各投射先ごとに実施し、味覚嗜好性の調節に関わる脳部位を味覚リッキングテスト(味溶液を舐めた回数を計測)により探索した。 その結果、外側視床下部に投射するAgRP神経が甘味に対する嗜好性を高めるだけでなく、苦味など忌避性の味に対する感度低下を誘導することが明らかになった。この変化は、生理的な空腹に伴う味覚の変化パターンと非常によく似ていた。また、特に外側視床下部に存在する興奮性神経の活動がこの変化を産み出すことが明らかになった。 外側視床下部以外のAgRP神経の投射先を刺激した場合には同様の変化はほとんど見られなかったことから、外側視床下部の活動が空腹に伴う味覚の調節に重要な役割を担うことが明らかになった。
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