研究課題
細胞膜は、植物細胞が外界からのシグナルを受容し、細胞内の応答を誘引する初動の場である。脂質二重膜で構成される細胞膜上には受容体、キナーゼ、イオンチャネル等、様々なタンパク質が存在するが、それらは膜上に均一に配置されているのではなく、スフィンゴ脂質とステロールを主要構成成分とする「脂質ラフト」と呼ばれるマイクロドメインに局在し、シグナル伝達の場を構成していることがわかってきた。植物細胞膜マイクロドメインの構造と環境ストレス応答における役割を理解することを目的として研究を行った。本年度は、スフィンゴ脂質を構成する長鎖塩基(LCB)の不飽和化とアルミニウム耐性に関する研究を中心に進めた。SLDはLCBのΔ8位を不飽和化する酵素であり、その高発現により、シロイヌナズナや出芽酵母のアルミニウム耐性を高めることが報告されている。植物種によりSLDの生化学的特製が異なることが示され、イネのSLDはcis型を多く入れる特長を持ち、シロイヌナズナのSLDはtrans型を多く形成する活性を持つことがわかった。この2種類のSLDをイネに高発現させ、脂質分析およびアルミニウム耐性を調べている。ここまでの結果として、得られた高発現系統を選抜し、発現量とLCB組成の解析を行った。その結果、イネのSLDを高発現した系統では、イネ特有の高いcis/trans比を保ちつつ、コントロールに比べて不飽和度が増加した。一方、シロイヌナズナのSLDを高発現させたイネ系統では、cis/trans比の逆転と著しい不飽和度の増加が見られた。根を用いたアルミニウム感受性試験の結果、シロイヌナズナのSLDを導入している系統で根の伸長がコントロールよりも抑制されるという結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
性質の異なるシロイヌナズナ由来のSLDおよびイネ由来のSLDを導入したイネ系統が作出済みとなっており、発現量の確認とLCB組成の定量も終了している。また、現在、DES(LCBΔ4位)の不飽和化酵素をコードする遺伝子にも注目しており、Crispr/Cas9システムを用いたゲノム編集により、変異を導入する実験も順調に進んでいる。これらの遺伝子改変系統を用いた解析により、LCBのΔ4位とΔ8位不飽和化の生理的意義の相違についても迫ることが可能となった。また、これらの系統におけるストレス応答遺伝子の発現量を比較することにより、スフィンゴ脂質が支える細胞膜マイクロドメインの生理機能についても解析が可能となっている。
ここまでで確立することができたイネ系統を引き続き主要研究対象として、解析を進める。これに加えて、イネの解析には時間がかかることを考慮し、シロイヌナズナの同様の系統の作出についても進める。SLDに関するデータはとりまとめ、学会発表を行うとともに、学術論文執筆に向けたデータ整理も進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件)
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