スフィンゴ脂質は、長鎖塩基に脂肪酸がアミド結合したセラミド骨格に様々な親水性頭部が結合した複合脂質であり、真核生物の主要な膜脂質である。植物では、GlcCerとGIPCが主要なスフィンゴ脂質である。スフィンゴ脂質は細胞膜ナノドメインの主成分として様々なストレス応答に寄与していると考えられるが、その分子機序には不明な点も多い。植物スフィンゴ脂質のセラミド骨格に不飽和結合を入れる酵素であるSLDとADSは、ともに植物の低温耐性に寄与することがこれまでの研究成果から示されつつある。ADSは脂肪酸n-9位の不飽和酵素であり、SLDは長鎖塩基のΔ8位を不飽和化する。これらを同時に欠損したsld1ads2二重変異体では、低温馴化能が低下していることがわかった。また、この系統は、低温処理のみで黄化・生育抑制を示すことを明らかにした。また、GIPCには、セラミドにイノシトールと様々な糖が付加されている。陸上植物のGIPCは、第二糖として、ヘキソースを持つH型GIPCと、ヘキソサミンを持つN型GIPCに分類され、それぞれGMT1およびGINT1という酵素が合成を担っている。シロイヌナズナでは、GMT1は植物全体に発現し、欠損変異体は実生致死の表現型を示すことを示した。一方、GINT1は種子など限られた組織で特異的に発現しており、欠損変異体は種子が肥大することを明らかにした。また、この時、gint1では肥大した種子だけでなく、未熟で小さな種子の形成や種子の欠落が起こり、1個体あたりの種子数が減少することが明らかとなった。このgint1の表現型は、GINT1プロモーター下でGMT1を種子特異的に発現させても回復しないことから、N型GIPCに特異的な機能に起因することを示した。
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