研究実績の概要 |
細胞質雄性不稔性(Cytoplasmic male sterility, CMS)原因遺伝子によって,正常な花粉ができず,自殖によって種子が採れなくなるCMSイネを材料に用い,CMS原因遺伝子の人為的は発現制御を行うことを目的として以下の3点,1)ミトコンドリア移行TALEN(mitoTALEN)を用いた真のCMS原因遺伝子の同定,2)花粉形成時期に発現するmitoTALENを用いたCMS原因遺伝子の機能抑制,3)カスタムPPRタンパク質による転写後制御を介したCMS原因遺伝子の機能抑制,について研究を行った.本年度は,特に1)のCMS原因遺伝子の同定に注力した.実験材料として利用したRT102型CMSイネは,実用化されたハイブリッドライスの細胞質としてシェアの90%を占めるWA型の派生型と考えられる.これまでRT102型CMSイネのCMS原因遺伝子はorf352であると考えられてきた.しかし,今回mitoTALENによってorf352が破壊された個体の観察を行ったところ,種子稔性が回復しないことが分かった.また,ミトコンドリアのゲノム解析の結果,ORF352タンパク質のアミノ酸番号179番目から352番目が残っている個体では,花粉の表現型がRT102型CMSと同じままであったが, 211番目から352番目を保持している個体では,花粉へのデンプンの蓄積が確認され,花粉の表現型が回復していることが分かった.以上のことより,ORF352タンパク質の179番目から210番目のアミノ酸配列が花粉発達異常に寄与している可能性が示された.さらに,RT102型CMSがorf352一つのみによって引き起こされているのではなく,別の原因遺伝子が存在していることも明らかとなった.同様の結果がWA型CMSイネにおいても得られることが予想された.
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