研究実績の概要 |
本研究では、イネの栽培化の初期には利用されたが、その後消失の方向に選抜されてしまったユニークな器官である芒に焦点を当て、有芒性と無芒性の意義を明らかにすることを目的としている。本年度は、野生イネOryza rufipogon W630、栽培イネO. sativa Japonica Nipponbare、O. sativa Indica IR36、およびそれらの交雑後代系統を主に用いて、以下の5つの項目について形質調査ならびに遺伝子解析を行った。 1.野生イネにおける芒の役割:自然状態を模した処理区を設定し、種子脱落および移動に関する物理実験から、野生イネの芒は種子拡散に必要な働きを持つことが示唆された。 2.栽培化初期の種子採集の再現:野生イネ系統の遺伝的背景において栽培品種O. sativa Nipponbare由来の種子の非脱粒性遺伝子(sh4遺伝子座等)ならびに穂の非開帳性遺伝子(Spr3遺伝子座)を導入した準同質遺伝子系統を圃場に展開し、種子採集実験を行った。 3.栽培化において無芒化を促進した遺伝子座の同定:芒が最も短い戻し交雑自殖系統と栽培イネ親系統と交雑・自殖し、QTL解析用の分離集団を育成した。また、栽培品種O. sativa IR36の無芒性に関与すると推定された3つのQTLsにおける遺伝子の相互作用を検証した。 4.栽培イネに残る有芒性の遺伝的機構の解明:熱帯アジア5カ国の在来品種の種子標本について、芒の性質を調査するとともに、可能な系統からDNAサンプルを抽出した。 5.野生イネへの遺伝子流動の実態解明:野生イネ海外調査を行ったミヤンマー・カンボジア・ベトナムにおける栽培イネからの遺伝子流動の実態を、芒に関する主要遺伝子座(An-1, LABA1, RAE2)の機能喪失変異を検出するマーカーを用いてに推定した。
|