申請者らは、これまでの研究で、タルホコムギの遺伝的多様性を導入したコムギの多重合成コムギ派生系統(MSD)集団を開発し、スーダンの高温ストレス圃場において栽培し、複数の高温耐性系統を選抜した。また、これら系統の高温耐性は、人工気象器内においても再現できた。そこで、本研究では、高温耐性系統と通常系統の分離集団を用いた遺伝分析により、1)これら系統の高温耐性に関わる量的遺伝子(QTL)を同定する、2)QTLを同一の遺伝的背景に持つ準同質遺伝子系統を作成する、3)QTLを識別し高温耐性育種に利用できる選抜マーカーを開発することを目的として行った。 本年度は、異なる合成コムギ4系統と農林61号のF1植物に農林61号を戻し交配したBC1F1に由来する戻し交配組換え近交系統(BILs)合計956系統をスーダン農業研究機構に送付して栽培した。系統数が多いので、augmented designを採用し、5~7のスーダン品種と農林61号を比較品種として含む約39系統をブロック単位とし、形質を取得した。また、同じ系統を乾燥地研究センターの圃場で栽培し、ストレスのない条件下での基本的な形質を取得した。また、これらの系統からDNAを抽出し、ゲノムワイドマーカーであるGRAS-Diで遺伝子型を決定した。この表現型情報および遺伝子型情報を比較し、高温耐性形質のQTL解析を見いだし、連鎖マーカーのDNA配列を得た。 さらに、これとは別にMSD系統で高温耐性を示した3系統に農林61号を交配したBC2F1由来の植物を、5mLのピペットチップを用いた半水耕栽培で世代促進し、BC2F4系統を作成し、これも上述の方法で遺伝子型の決定を行った。この植物の形質は、理論的には87.5%の農林61号のゲノムを保有するため、形質が農林61号と類似している。今後、高温耐性メカニズムの分子的機構を解明するための好材料となる。
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