研究課題/領域番号 |
18H02181
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (10291890)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 植物生殖 / small RNA / エピジェネティクス / Argonaute |
研究実績の概要 |
減数分裂は、新たな遺伝子組み合わせを創出すると同時に、相同染色体間の構造・数を認識あるいは監視する機能を有する。これらの機能は、種内の遺伝的多様性を維持するとともに、種間の遺伝子交換を制限することで種の維持に大きく貢献する。減数分裂の分子機構の理解は、育種効率の向上や利用可能な遺伝資源の拡大につながると期待される。 代表者はこれまでに、日本人の主食であるイネを用い、減数分裂期の葯で特異的に生産される24塩基長のsmall RNA(24-phasiRNA)が、タペートと呼ばれる葯壁内層を構成する体細胞層で、EAT1転写因子により特異的に生産されることを明らかにした。また、24-phasiRNAの一部がタペート細胞から中央の雄性減数分裂細胞に移行する可能性を明らかにした。 本課題では、24-phasiRNAが減数分裂染色体のクロマチン構造や凝縮に何らかの影響を及ぼしている仮説を検証するため、イネの2つのArgonauteタンパク質(AGO)、MEL1とAGO-X(仮名)の機能解析を目的とする。AGOは、small RNAと結合して遺伝子発現を抑制することが知られる。 今年度は、既に減数分裂細胞核への蓄積が明らかなMEL1に加え、新たにAGO-Xが減数分裂移行直後に細胞核に高い蓄積を示し、かつ染色体の広範に結合することを見出した。一方、MEL1の染色体への結合は、光学顕微鏡レベルでは検出できなかった。従って、AGO-Xが減数分裂に特徴的な染色体構造を形成する際の主役であるAGOである可能性が強まった。 上記の解析に加え、MEL1およびAGO-Xの核移行における24-phasiRNAの役割を明らかにする目的で、蛍光タンパク質GFPにMEL1あるいはAGO-Xを融合したタンパク質を発現するeat1変異体(24-phasiRNA生産が欠損)、その他の形質転換イネを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初は、減数分裂に特徴的な染色体構造を形成する際の主役はMEL1 AGOであると予想していた。そこで、減数分裂期の葯およびMEL1抗体を用いたクロマチン免疫沈降画分の次世代シーケンスを行ったが、MEL1が直接減数分裂染色体に結合する証拠は得られなかった。 その一方で、AGO-X自身のプロモーターでGFP-AGO-X発現が誘導される形質転換イネの葯の観察から、AGO-Xが減数分裂移行直後に、減数分裂細胞核に極めて高い蓄積を示すことが明らかになった。シロイヌナズナAGO-Xの減数分裂での機能に関する報告はあるが、詳細な分子機構については未解明である。またイネにおいてはまだ報告がなく、この成果を発展させれば、減数分裂研究分野およびエピジェネティックス研究分野に新知見をもたらす可能性が高い。上記以外に、減数分裂で特異的に生産される24-phasiRNAとMEL1およびAGO-Xの相互作用を調べるための各種形質転換イネを作成した。これらは来年度早々に利用可能である。 MEL1が核で機能する可能性を示す証拠が得られず、一時は当初計画の遂行すら危ぶまれたが、核機能をもつ可能性が高い別の候補であるAGO-Xが、当初の予想をはるかに上回る高いレベルの核蓄積を示したことで、今後の研究の方向性が定まった。また、MEL1およびAGO-Xの分子機能に大きな影響を与えている可能性が高い24-phasiRNAとの相互作用を解析するための形質転換イネを多数作出できたので、来年度以降の研究も順調な進捗が期待できる。 上記の理由から、本課題は概ね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
AGO-Xが減数分裂染色体上のどのようなゲノム配列に結合しているのかを特定するとともに、AGO-Xのガイド分子として働くsmall RNA配列の特定を進める。 具体的には、AGO-XとGFP(蛍光タンパク質)の融合タンパク質を発現する形質転換イネの葯を用いて、AGO-Xと結合するsmall RNAの免疫沈降と大量解読を行う。またAGO-Xのライブイメージング解析により、AGO-Xの減数分裂細胞核への局在のタイミングなどを明らかにする。さらに、減数分裂移行期の花粉母細胞(雄性減数分裂細胞)を顕微マニピュレーションにより単離し、移行期に特徴的なDNAメチル化パターンの検出を試みる。上記のAGO-X結合small RNA解析の結果と照合し、AGO-Xが相互作用する減数分裂染色体ゲノム領域の推定が可能になると期待できる。
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