研究課題/領域番号 |
18H02184
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小松田 隆夫 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 主席研究員 (60370657)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小穂脱落性 / 進化 / 栽培起源 / 穀物 / 細胞壁 |
研究実績の概要 |
栽培化された穀物は、祖先野生種と異なり成熟後も種子が自然には落ちない特徴をもち、これは収穫する上での利点でもある。しかし本来、成熟した種子の脱落は植物が拡散し生息域を広げるために重要な形質である。本研究では遺伝研究に優れ栽培化研究が進んでいるオオムギをモデルに用いて、二つの遺伝子Btr1とBtr2に着目し、そのタンパク質の機能を解明する。これまで麦類の小穂が脱落する現象も離層形成による細胞間の解離が原因だと信じられていた。しかし実際はオオムギでは離層が作られず、代わりに穂軸の節上部の数層の細胞で細胞壁が極端に薄くなり、これが原因で細胞壁が脆くなることで外部からの力によって細胞壁自体がくだけて小穂が脱落することを、申請時までにみつけている。そこで、イネ科植物におけるゲノム塩基配列解読を行いBtr1とBtr2の遺伝子構造、分子進化を明らかにした。 解析には全ゲノム塩基配列が決定されているイネ科植物を使用した。Btr1とBtr2の塩基配列をPCRとサンガー法で決定した。分子系統解析は最尤法でおこなった。 実験の結果、Btr1とBtr2はコムギ連 (Triticeae)植物にのみ存在し、コムギ連の姉妹群であるPoeae連には存在せず、Brachypodiumにも存在しないことが明らかになった。Btr1のパラログであるBtr1-likeとBtr2のパラログであるBtr2-likeは調査した全てのイネ科植物に存在することから、Btr1とBtr2はコムギ連植物が他の分類群から分岐すると同時にBtr1-likeとBtr2-likeからそれぞれ重複して生じたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物におけるBtr1およびBtr2遺伝子の分子進化パターンが解明された。すなわちBtr1とBtr2はコムギ連植物が他の分類群から分岐する時期にBtr1-likeとBtr2-likeからそれぞれ遺伝子重複して生じたことが明らかになった。したがってBtr1とBtr2はコムギ連植物に特異的であり、同じくムギ連植物に特異的な小穂脱落性に深く関わるであろうことと、よく一致する。
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今後の研究の推進方策 |
コムギ連植物にはオオムギのような穂軸で脱落するのではなく、小穂軸(小枝梗)において脱落する植物が多くを占める。そこでこれら小穂軸において脱落する植物おけるゲノム塩基配列解読を行いBtr1とBtr2の遺伝子構造、分子進化を明らかにする。またこの二遺伝子の有無や発現部位の違いを種子の脱落様式と比較することで遺伝子が機能している部位・組織を特定する。さらに種子脱落に関わる組織離断部位の細胞壁の構造や組成にどのような変化が生じているのかを明らかにし、Btr1とBtr2のタンパク質の機能推定をおこなう。本研究により麦類がどのようにして離層形成に依存しない、麦類に特徴的な種子脱落の形質を獲得したのかが明らかにされる。
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