研究課題/領域番号 |
18H02185
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢守 航 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90638363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成 / 光合成誘導 / 変動光 / Rubisco / 環境応答 |
研究実績の概要 |
野外環境において植物の受ける光環境は、天候や植物体同士の相互被陰によって一日を通して常に変動している。本年度は、光合成の鍵酵素であるRubiscoの活性化を促進することによって、変動光環境における光合成能力の強化を目指した。これまでの申請者らの研究成果によって、Rubiscoは弱光環境では不活性化し、その後、光が突然あたってもすぐに活性が増加しないこと、そして、不活性化したRubiscoを再活性化するRubisco activaseの量を減少させた形質転換体イネとタバコでは、光合成誘導時間が著しく遅延することを明らかにしてきた。今年度は、Rubisco activase過剰発現体イネを高CO2環境で栽培し、高CO2環境における光合成誘導と長期的な変動光に対する光合成応答を解析した。その結果、高CO2環境においても、Rubisco activaseを過剰発現することによって、光合成誘導が促進されることを明らかにした。 また、我々の昨年度の研究成果によって、気孔開口は変動光下における光合成や植物成長を大きく律速することを明らかにし、気孔開度の環境応答を強化することによって、変動する光環境における植物の光合成能力の改善に成功してきた。光合成の基質であるCO2の拡散には、気孔開閉のみならず、細胞間隙から葉緑体にかけてのCO2の輸送効率(葉肉コンダクタンス)も関与する。本年度は、高性能レーザー分光装置を用いて、変動光環境下における葉肉コンダクタンスの変化を評価した。その結果、葉肉コンダクタンスと光合成速度の変動する光に対する挙動を世界で初めて捉えることができた。また、光合成誘導は気孔コンダクタンスに強く制限されるが、葉肉コンダクタンスによる制限は比較的小さいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のこれまでの研究成果によって、光合成誘導時の最初の数分間は電子伝達反応が主な律速要因となること、その後は、Rubisco activaseを介したRubiscoの活性化や気孔開口が光合成誘導の促進に重要な役割を果たすことを示し、光合成制御機構の全体像が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、光合成の鍵酵素であるRubiscoの活性化を促進することによって、変動光環境における光合成能力の強化を目指す。申請者らの研究によって、Rubisco activaseの過剰発現体では、Rubisco activase量の増加に伴ってRubisco量が減少し、その結果、定常状態における光合成速度が大きく低下することを示してきた。Rubisco量の低下を抑制するため、すでにRubisco activase過剰発現体とRubisco過剰発現体を掛け合わせた二重形質転換体の複数ラインを作製することに成功していたが、候補ラインの選抜に時間を要した。次年度は、二重形質転換体を用いることによって、光合成誘導反応への影響、変動光環境に対する光合成能力と物質生産能力を合わせて評価する。 また、次年度は最終年度であるため、これまでの我々の研究成果を統合し、光合成系の諸反応の変動光応答をまとめることで、それらのメカニズムの全体像が明らかにする。
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