ニホンナシの花芽の開花や萌芽の異常における温度の影響について調査するため、花芽の休眠打破に対する温度条件の影響について生理生化学的、および分子生物学的に検討した。 特に、異なる温度条件に花芽を遭遇させた際の休眠打破への影響と酸化還元状態の変化を知るために、最初に、酸化還元関連の制御に関わる遺伝子発現を調査した。また、花芽の遺伝子発現に対する影響について網羅的に調べるため、RNA-seqを用いて解析した。さらに、花芽および根中の植物ホルモンへの影響を明らかにするため、樹体を異なる温度条件に遭遇させ、樹体の植物ホルモン量を分析した。 その結果、複数のNADPHオキシダーゼ遺伝子やATPase関連の遺伝子に温度処理による影響が認められ、酸化還元関連酵素遺伝子であるグルタチオンリダクターゼや、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ遺伝子などに温度処理による影響が見られることが明らかになった。 また、花芽が遭遇する温度の条件と花芽中の植物ホルモン量を定量した結果、ジベレリンA1、およびサイトカイニン(イソペンテニルアデニン、ゼアチン)とオーキシン(IAA)が萌芽率の上昇に伴い増加するなど植物ホルモンを介した変化が生じていることが示唆された。また、ポット植えのニホンナシを異なる温度条件に遭遇させた際の樹体の植物ホルモンについて検討し、アブシシン酸(ABA)およびサイトカイニンの変動が休眠打破や萌芽に伴い生じることが示され、それらの植物ホルモンの樹体における変動と生理的変化との関連が示唆された。
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