研究課題/領域番号 |
18H02196
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 仁志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20220014)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ACC合成酵素 / エチレン生合成 / リン酸化 / 脱リン酸化 / 質量分析計 |
研究実績の概要 |
エチレンは果実の追熟、野菜・花卉の鮮度保存など園芸作物に大きな影響を与えるため、エチレンを人為的に制御することは、園芸分野において重要な課題である。現在、エチレン生合成に関する研究の中で明らかになっていない点は、エチレン生合成経路の鍵となるACC合成酵素のリン酸化状態による翻訳後制御機構である。本研究は、ACC合成酵素のリン酸化状態を制御するProtein Phoshatase(PPase)を同定し翻訳後制御機構を解析する。この成果によってエチレン生成調節機構を明らかにし、園芸作物の品質向上に資するための基盤的知見を得ることを目的にしている。質量分析計を使って解析した結果、ACC合成酵素を脱リン酸するprotein phosphatase PP2AのサブユニットA, B, Cをいくらか絞り込めてきた。特にBサブユニットの中のサブファミリーB型(2種類)、B’型(9種類)、B’’型(5種類)に分かれており、これまでの解析からB’’型が候補と考えられる。各サブユニットのcDNAをクローニングして、発現量を解析したが、特に著しく増減することはない。PP2Aは様々なリン酸化タンパク質を脱リン酸して生理現象を制御する機能があり、ACC合成酵素を脱リン酸することはその機能の一つに過ぎない。従ってACC合成酵素の制御と関わって発現量が増減しなくても違和感はない。だからこそ、どのPP2AのサブユニットがACC合成酵素とタンパク質間相互作用することを明らかにする意味は大きい。本来の予定ではAlphaScreen法により解析する計画だったが、まだ十分に解析できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PP2AとACC合成酵素のタンパク質間相互作用を解析するために、AlphaScreen法を用いる計画だったが予定通りの成果がでなかった。考えられる原因の一つは、相互作用すると想定していたいくつかのサブユニットB’’型が、元々相互作用しない可能性である。しかし、これまでの結果からその原因を考えられない。ACC合成酵素がうまくリン酸化されていないために相互作用しなかったためではないかと考えている。別の観点から考えると、リン酸化タンパク質とPP2Aが相互作用するポジティブコントロールがなかったために、実験自体を検証できなかったかも知れない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は再度、PP2AとACC合成酵素のタンパク質間相互作用をAlphaScreen法で解析する。ACC合成酵素タンパク質のリン酸化を確認すると共に、リン酸化されるアミノ酸残基をアスパラギン酸に変換して疑似リン酸化にしたACC合成酵素と相互作用を解析する。また、PP2A各サブユニットのタンパク質の発現量と、ACC合成酵素タンパク質の発現量を定量するためには、典型的にはそれぞれの抗体が必要になるが、この研究ではMRM (multiple reaction monitoring)法を使って質量分析計でタンパク質を定量する。そのために、各サブユニットを小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成し、トリプシンで消化後、MRM法に適したペプチドを同定し、化学合成したペプチドを用いてMRM法でタンパク質を定量する。リン酸化されたACC合成酵素を認識するPP2AのBサブユニットが同定された場合は、生体内・組織内でも役割を検証する。但し、シロイヌナズナの場合、これまでにPP2Aの特定のBサブユニットに変異があるために、エチレン生成が過剰になった変異体は、T-DNAタグラインを含め一つも見つかっていない。このことは複数種類あるBサブユニット遺伝子が互いに重複して働いているために、一つの遺伝子の変異では表現型がでない可能性がある。従って、特定のBサブユニットは複数同定されるはずであり、Bサブユニットの変異体も単独ではエチレン生成過剰にはならず、交配によって二重あるいは多重の変異体にする必要があると推測できる。同様にトマトの場合も、単独の変異ではエチレン生成過剰にならないかもしれない。そのために各Bサブユニットの発現を、CRISPR/Cas9 システムを用いて目的遺伝子を改変することにより抑制し、実際にエチレンの生成量が増加することを生体内で確認する。
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