研究課題/領域番号 |
18H02201
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐野 輝男 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (30142699)
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研究分担者 |
葛西 厚史 弘前大学, 農学生命科学部, 研究機関研究員 (80633982)
中原 健二 北海道大学, 農学研究院, 講師 (90315606)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ウイロイド / 活性酸素種 / スーパーオキシドジスムターゼ / miR398a-3p / miR398 / 2-オキソグルタル酸/Fe(II)依存ジオキシゲナーゼ / ダイサー様リボヌクレアーゼ / 壊疽 |
研究実績の概要 |
A. RNAサイレンシングのキー因子ダイサー様リボヌクレアーゼDCL2 とDCL4 をノックダウンしたトマト(品種;マネーメーカー;以下72E系統)にジャガイモやせいもウイロイド(PSTVd)を感染させると激しい矮化・葉巻と全身壊疽を生じる。72E系統で激しい壊疽が発症する分子機構の分析を進めた。その結果、PSTVdに感染した72E系統ではPSTVdの初期蓄積量が増加し、自然免疫による防御反応で多量の活性酸素種(ROS)が発生するが、その一方で、PSTVd感染はストレス応答性マイクロRNAであるmiR398とmiR398a-3pの発現を誘導することが明らかになった。miR398とmiR398a-3pはROSの消去酵素スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子の発現を負に制御しているため、植物は有害なROSを消去することができなくなり、結果として激しい壊疽症状が生じると結論付けた。 B.弱毒性のPSTVd-ダリア株の病原性の分析から、第42番と64番塩基の変異が弱毒化に重要で、特に第42番塩基がUに変化すると蓄積量が低下し、宿主の防御応答反応を引き起こす力が弱くなり、弱毒化する可能性を示す結果が得られた。 C.トマトのジベレリン水酸化酵素(GibβH)遺伝子(仮称)の解析を進め、本遺伝子はトマトの第8染色体に座上し、2-オキソグルタル酸/Fe(II)依存ジオキシゲナーゼスーパーファミリーに属する新奇の遺伝子であることを明らかにした。RNAseq解析及びGibβH遺伝子の発現解析から、PSTVdに感受性のトマト品種と耐性のトマト品種ではGibβH遺伝子の発現パターンが異なる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNAサイレンシングのキー因子ダイサー様リボヌクレアーゼDCL2 とDCL4 をノックダウンしたトマト系統にPSTVdを感染させた時に生じる激しい黄化・壊疽症状の発症機構に関する分析から、ウイロイドの感染に対する防御の最前線で重要な役割を演じるDCL2とDCL4の発現が阻害されるとPSTVdの初期蓄積量が増加し、その結果、宿主の防御反応により多量のROSが発生する、一方で、PSTVdの感染はストレス応答性マイクロRNAであるmiR398a-3pやmiR398の発現量を異常に上昇させるが、miR398a-3pやmiR398はROSの消去酵素スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子の発現を負に制御しているため、PSTVd感染植物は有害なROSの発生を制御できなくなり、壊疽症状が発生することを明らかにすることができた。 また、PSTVdの感染で発現量が低下することが報告されているトマトのジベレリンβ水酸化酵素(GibβH)遺伝子の解析が進展し、本遺伝子がトマトの第8染色体に座上する新奇な2-オキソグルタル酸/Fe(II)依存ジオキシゲナーゼであることを明らかにすることができた。さらに、PSTVdに感受性のトマトと耐性のトマトではこの遺伝子の発現パターンが異なる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
RNAサイレンシングのキー因子ダイサー様リボヌクレアーゼDCL2 とDCL 4 をノックダウンしたトマト72E系統にPSTVd感染で生じる激しい全身性の壊疽症状を分析した結果、壊疽症状の発生機構を明らかにすることができた。壊疽症状はウイロイド感染で生じる最も典型的且つ重大な病徴であるので、さらにウイロイド感受性のトマト品種Rutgersを用いて、栽培トマト品種で発生する壊疽症状もこれと同じ機構で発生しているのかどうかを確認している。これまでにほぼ予想通りの結果が得られており、今後、結果をまとめて論文を投稿する準備を進めている。栽培品種で壊疽が生じる機構とウイロイドの病原性の関係を明らかにすることができれば、今後、耐病性品種開発につながる有益な情報が得られるものと期待される。 PSTVdの感染で発現量が低下することが報告されているジベレリンβ水酸化酵素(GibβH)遺伝子の解析をさらに進め、PSTVdに感受性トマト品種と耐性の品種における発現パターンの異同を明らかにできれば、今後、耐病性品種開発につながる有益な情報が得られるものと期待される。
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