研究実績の概要 |
世界的な農業害虫であるナミハダニ(Tetranychus urticae)を対象とし,RNA干渉(RNAi)を基盤とした次世代農薬の研究開発を進めた.特に,外部環境から摂取した二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導されるenvironmental RNAi(eRNAi)に着目し,それを効率的に誘導するための人工給餌システムの開発に取り組んだ.そして,本来ハダニが摂食する葉の構造を模倣したシート状の給餌システムを開発した(特願2018-197157).本給餌システムは,葉の細胞に見立てた細孔内に液体を含浸するマイクロメッシュと,それを被覆する防湿性の薄膜フィルムから構成される.比表面積が大きいため,ハダニ1頭あたりに用いるdsRNA溶液の量を従来の給餌システムと比較して約30分の1まで減らすことができ,高効率なeRNAi実験を実施可能になった(Ghazy et al. Frontiers in Plant Science 11, 1218, 2020).他方,経口摂取後のdsRNAのプロセッシング機構についても調査した.まず,ハダニの粗抽出タンパク質からDicer(RNase III)活性を定量する系を確立した.この系により,基質のdsRNAから約20塩基前後の2種類のsmall RNAが生成されることが判明した.また,このDicer活性は,基質のdsRNAの鎖長によって異なり,これはeRNAi効果とパラレルな関係であることも判明した.これにより,dsRNA鎖長依存的なeRNAi効果には,Dicerタンパク質のdsRNA認識が関わっている可能性が示された(Bensoussan et al. Scientific Reports 10, 19126, 2020).
|