研究課題
本研究では、ウリ類炭疽病菌の宿主キュウリへの侵入ステージにおいて高発現する、ECAPと総称するエフェクター群に焦点をあてる。まず、第一ウリ科作物への病原性に必要なエフェクターECAP12について、その抵抗性抑制の分子機能を解明する。第二に本菌の病原性に必要な新規ECAPエフェクターを発見するために、複数の菌株で共通してキュウリ上で形成された付着器で高発現するECAP群を網羅化し包括的な機能解析をおこなう。以上より「侵入と連動し、宿主免疫を抑制するエフェクター群」のアウトラインを明らかにする。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。1. ベンサミアナタバコにおいてNbBiP5を過剰発現させた結果、ウリ類炭疽病菌への罹病性が増大することが見出された。この結果より、NbBiP5が本菌への抵抗性を負に制御している可能性が示唆された。2. トマト萎凋病菌のSIX6においてウリ類炭疽病菌のECAP12との機能比較を実施した。まず、NbBiP5への結合性を共免疫沈降解析により調査した結果、SIX6はNbBiP5と相互作用することが示唆された。さらに、SIX6をベンサミアナタバコにおいて一過的に発現させた結果、flg22 が誘導する活性酸素の生成が抑制された。これらの結果は、ウリ類炭疽病菌のエフェクターECAP12とトマト萎凋病菌のエフェクターSIX6が類似した分子機能を有することを示唆した。3. ウリ類炭疽病菌の4系統について、キュウリ接種1日後(1 dpi)のRNAシークエンスを実施した。得られたRNAシークエンスデータと、すでにデータを得ているウリ類炭疽病菌104-T系統のデータと統合解析し、合計5系統のいずれにおいてもキュウリ侵入ステージにおいて高発現しているECAPエフェクター群を網羅的に選抜した。現在、選抜エフェクター遺伝子の標的破壊解析に着手している。
2: おおむね順調に進展している
NbBiP5の過剰発現により、ベンサミアナタバコのウリ類炭疽病菌への罹病性が増大することを発見したが、本知見はエフェクターECAP12の機能、役割を解明する上で大きな前進といえる。予備的な結果より、ECAP12の存在によりNbBiP5の蓄積が増大する結果が得られており、ECAP12は抵抗性の負の制御因子の分解を阻害することで、抵抗性を低下に導いている可能性がある。また、土壌病原菌であるトマト萎凋病菌のエフェクターSIX6と地上部に病害を引き起こすウリ類炭疽病菌のエフェクターECAP12が同等の抵抗性抑制機能をもつことを明らかにしたが、このような感染戦略の違う病原菌でエフェクターの機能が保存されているのは非常に興味深い。また、RNAシークエンスにより、ウリ類炭疽病菌の5系統のいずれにおいてもキュウリ侵入ステージにおいて高発現しているエフェクター群の同定に成功しており、続く標的破壊による機能解析により、新規の重要エフェクターの同定が期待される。以上のように、本研究は順調に進行している。
ウリ類炭疽病菌の5系統のRNAシークエンスデータにより選抜された、キュウリ侵入ステージにおいて高発現しているエフェクター群について、その標的遺伝子破壊解析を実施し、単一遺伝子破壊株の作出について完了する。続いて、病原性の低下を示したエフェクター遺伝子に関しては、ECAP12遺伝子破壊株を背景として、多重遺伝子破壊株を作出し、病原性のさらなる低下が観察されるかを検討する。複数の重要エフェクターが同定されると予想しており、それに合わせ、3重、4重変異体などの多重変異体を作出し、キュウリなどのウリ科作物への感染に必要とされるECAPエフェクター群を掌握する。NbBiP5とECAP12の感染場面での結合について、細胞生物学的側面からのデータを得るために、NbBiP5とECAP12の異なる蛍光タンパク質でラベルし、それらをベンサミアナタバコにおいて一過的に発現させ、続いて炭疽病菌を接種して、感染部位において共局在が観察されるかを調査する。また、ECAP12存在下でのNbBiP5の蓄積についてさらに調査する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
巻: 116 ページ: 496-505
10.1073/pnas.1807297116.
Journal of General Plant Pathology
巻: 84 ページ: 305-311
10.1007/s10327-018-0799-y.